第23話長恨歌(完)

臨別殷勤重寄詞 詞中有誓両心知

七月七日長生殿 夜半無人私語時

在天願作比翼鳥 在地願為連理枝

天長地久有時尽 此恨綿綿無絶期



楊貴妃は 天子のもとに帰る道士に 心をこめて さらにお言葉を託します。


そして そのお言葉のなかには 一つの誓い それは天子と楊貴妃以外 誰も知ることのない二人だけの誓いがありました。



七月七日 長生殿 人もいない夜半 二人だけの誓い



「天にあっては比翼の鳥に 地にあっては連理の枝に」




悠久の天 恒久の地


それでさえも いつかは果てる時が来る。


しかし この悲しみだけは いつまでも続き 絶えることはない。



                                  (完)



※寄詞:言葉をことづけする。この場合楊貴妃から道士を介しての天子への伝言


※七月七日と長生殿:七月七日は、牽牛と織女が一年に一度会う日。長生殿は避寒地の離宮華清宮の斎戒の場であり、本来は二人が睦み合うことはない。

しかし白楽天は七月七日という日と華清宮の名に込められた「永遠の生」という意味に、二人が永遠の愛を誓うことがふさわしいと考えたと言われている。


※比翼鳥:雌雄一体の鳥で男女和合の象徴

※連理枝:根の異なる二本の木が伸びて上部で合体したもの、「理」は木目。瑞兆で男女和合の象徴。

※此恨:二人の別離の愛の悲しみ



※源氏物語:「桐壷」

 朝夕の言種に、「 翼をならべ、枝を交はさむ」と契らせたまひしに、かなはざりける命のほどぞ、 尽きせず恨めしき。

(朝夕の口癖に、「比翼の鳥となり、連理の枝となろう」とお約束あそばしていたのに、思うようにならなかった人の運命が、永遠に尽きることなく恨めしかった。)


※長恨歌は、悲恋に終わった玄宗と楊貴妃の恋が、来世に続く宿命の恋として詠み上げ、その深い愛情を、二人の一心同体の誓いの中に示している。

 源氏物語は、長恨歌を根幹にしながら、現世における「悲嘆の解消」をテーマに、「ゆかりと形代」(桐壺更衣のゆかりに藤壺中宮、藤壺中宮のゆかりに紫の上、大君の形代に浮舟)として展開をさせている。


※玄宗皇帝と楊貴妃の全盛時代、我が日本から遣唐使として唐に渡り、最高クラスの高官となった阿倍仲麻呂は、玄宗は当然ながら実在の楊貴妃への謁見があったのではないか、そのようにかつてから言われている。

阿倍仲麻呂は残念ながら帰国できず、唐の地で没したけれど、彼の二人の子供の翼と翔が帰国していた時期がある、その二人を通じて、あるいは阿倍仲麻呂と親しかった遣唐使を通じて、玄宗皇帝と楊貴妃の話が内裏等で話されたこともあるのではないか、そう思うと、なかなか深く感じるものがある。



○元和元年(806)の作

 白楽天の代表作の一つ。

前半は史実にほぼ沿って進み、後半から道士が楊貴妃を捜し求め仙山で面会する空想の話となる。

半世紀前の安禄山の乱は記憶に新しく、宮中の秘事は人々の関心をひいた。

以後、「長恨歌」を祖型に詩、小説、戯曲などに、二人の愛情物語が書き継がれることになった。


○長恨歌は「源氏物語」の根幹。

 源氏物語はその後の日本文学に、多大なる影響を与えている。


 これ以上の言葉は、ありません。


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