第12話長恨歌(3)

承歓侍宴無閑暇  春従春遊夜専夜

後宮佳麗三千人 三千寵愛在一身

金屋粧成嬌侍夜  玉楼宴罷酔和春

姉妹弟兄皆列土  可憐光彩生門戸

遂令天下父母心  不重生男重生女



楊貴妃に賜われる天子の御寵愛は あふれるばかり。


全ての宴席では天子の隣に侍り 楊貴妃の休む暇など全くありません。


春になれば春の行楽に付き従い 夜の御伽は独り占めです。


後宮には三千人もの麗しき方々がおられます。


しかし その三千人分の御寵愛は、いまや楊貴妃だけに賜われるのです。


楊貴妃は美麗を尽くした黄金の皇后の御殿で化粧を整え 嬉々として 夜の御伽をつとめます。


また玉の楼閣の宴が終われば 春と溶け合う至上の酔い心地にひたります。


そして とうとう 楊貴妃の姉妹兄弟は 全てご領地を賜り 


御一門のご繁栄は光り輝くほどになりました。


このようなことから 世の親たちは男子の誕生を喜ばず 女子の誕生のみを心待ちにするようになりました。



※春は一年の中で、夜は一日の中で、ともに悦楽に最もふさわしい時。

※夜専夜は一人だけで天子の御伽を務めること、宮人の位により規定があり、一晩を一人で御伽できるのは「本来は皇后のみ」。楊貴妃は皇后ではなく皇后に次ぐ貴妃。

※金屋は本来は皇后の御殿、楊貴妃は身分を越えて住み、化粧をしている。

※玉楼は金屋が私的歓楽の場であるのに対して、公的な宴席の建物。


○玄宗皇帝の楊貴妃に対する身分を越えた御寵愛に少しずつ批判が込められている。

○源氏物語「桐壷」:桐壺帝は後宮のあるべき秩序に反して、女御たちに劣る身分の桐壷更衣を寵愛する。

「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、、すぐれて時めきたまふありけり」

「はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々、めざましきものにおとしめそねみたまふ」

中略

「唐土にもかかる事の起こりにこそ、世も乱れあしかれど、やうやう、天の下にも、あぢきなう人のもてなやみぐさになりて、もひき出つべくなりゆくに・・・」




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