第7話常楽里に閑居して

常楽里に閑居していた時に、偶然ではあるけれど、十六韻の詩が浮かんできた。

この時は、校書郎の任である。


帝都名利場 雞鳴無安居 獨有嬾慢者 日高頭未梳  

工拙性不同 進退迹遂殊 幸逢太平代 天子好文儒

小才難大用 典校在祕書 三旬兩入省 因得養頑疎

茅屋四五間 一馬二僕夫 俸錢萬六千 月給亦有餘

既無衣食牽 亦少人事拘 遂使少年心 日日常晏如

勿言無知己 躁靜各有徒 蘭臺七八人 出處與之俱

旬時阻談笑 旦夕望軒車 誰能讎校閑 解帶臥吾廬 

窗前有竹玩 門外有酒酤 何以待君子 數竿對一壺 


帝都は、名誉や利欲を激しく争う場所である。


したがって、夜明け前から、のん気にしている者などは普通は考えられない。


しかし、そんな中にも、珍しくもただ一人怠け者がいる。


既に日も高くなっているのに、頭に櫛も入れず、ボサボサだ。


まあ世渡りというものの上手下手は生まれつきなんだろう。


出世するかダメ役人のままなのかは、そこでわかれてしまう。


ただ生まれたのは幸運にも太平の御代だ。


天子さまも学問を大切にしてくれる。


私のような世知に乏しい人間は、概して世間一般の政治には向かない。


ということなので、もっぱら秘書省にて、校訂の任をこなす。


それも一月に二度の登庁で済む。


それ以外は、将来のなまけ心にまかせ、適当に暮らすのだ。


草葺の屋根には部屋が四つから五つある。


その上、馬が一頭、下僕が二人つく。


俸給は一万六千銭。


毎月、これほど支給されれば、使いきれず余りも出る。


暮らしの算段に困ることはない。


そのため、他人に気を使うこともない。


そういうことなので、この若輩者にして心の中は日々穏やかだ。


そんな自分を理解する人がいないなどとは、口に出してはいけない。


陽気な者も物静かな者も、それぞれ類は友を呼ぶ。


秘書省の七、八人とは、仕事も休暇もいつも一緒の仲間だ。


それが十日も話をしないと、朝な夕な、車が着くのが待ち遠しい。


こんな暇なので、誰か校訂の仕事が空いた時に、私の庵に昼寝にでも来ないだろうか。


窓の外を見れば、見栄えのする竹の群生があり、門の外には酒売が待ち構えている。


ということで、何を準備しして君子たちをもてなすのか。


御予想通り、数本の竹に一つの酒壺。



○貞元一九年(803)、長安の作。

 校書郎の任に就いた時の詩。

 とにかく暇だったようだ。

 そして使い切れないほどの支給もある。

 それで仲間に仕事をさぼって遊びに来いと誘う。

 のん気で幸せあふれる詩だと思う。


※常楽里:長安の街区の名前。最も東の列の南から七つ目となる区画。白楽天の長安における最初の住居。

※この詩は八人の仲間に送っているけど、PC上の漢字変換に難があるので名前の記載等は、省略した。

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