第38話 メトロノーム 2

 「我慢してメトロノームをしながら練習しようかね~。」と私が言うと、


 「嫌だ。絶対に嫌だ。メトロノームだけは嫌!メトロノームに合わせて弾くくらいなら点が低くていいもん。」


 「そんなじゃ明日本選で残れないよ、出るのやめたら?」


 「だって出ないとお母さんが怒るもん。めんどくさいから本選に落ちたいし、メトロノームは嫌だ!」


 「もう、好きにして…。私は知りません。はい、今日はレッスン終り。家でメトロノームせずに練習するくらいならもう練習自体しないでね。これ以上崩れたら恥ずかしいから。」


 と言って家に帰らせましたが、私はわかっていました。 

 その中学生はやるのです。

 本当に本選に落ちたい訳ありません。

 

 メトロノームに合わせて練習して当日やって来ました。


 「メトロノーム使ったけど合わなかったもん。」とか、ぶつくさ言いながら。


 そしてコンクール本番、テンポよく綺麗で繊細な音で流れるように弾けました。途中にあるテンポをゆっくりにするところや最後のゆっくりとした終りかたはメトロノームを感じさせない素晴らしい出来です。


 ちょっとテンポに気を取られたのか強弱の幅が狭く、こじんまりとした演奏になりましたけど。


 結果は 90点、90点、86点、まずまずの点数でした。

 因みに、86点を付けた審査員は私の先生でした。


 審査員の中で唯一(強弱の幅の狭さが故の)音楽的な立体感が欲しいというようなことを書いてくださっていたのです。


 今後につながるアドバイスでした。


 次の12月の地区大会では、本選まで勝ち抜いてきた中学生が集まります。

 当然レベルも高くなり、点付けも厳しいものになり完璧な演奏でないと入賞は難しいでしょう。


 初めてコンクールに挑戦してここまで出来ただけでも本当はすごいことです。


 メロディーを歌いながら美しい音で聴く人を魅了することのできる才能のある中学生です。


 私などと比べられない才能です。


 私も11月の本選、モーツァルトで頑張らなくては。

 

 ほらほら、書いてる場合じゃないから…。



                    続く

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