第39話 ベヒシュタインの音色


 実は、この間リュビモフのピアノコンサートに行ってきました。


 リュビモフさんというのはロシア人で、世界的に活躍している有名なピアニストです。


 このリュビモフさんは、その曲が作曲されたであろう時代のピアノでコンサートをするのがお好きなようです。


 私が行ったコンサート会場では、ベヒシュタインという名の古いピアノ(中の弦とかはピカピカでした)で演奏会が行われました。


 このベヒシュタインというピアノは、バイオリンで言うところのストラディバリウスらしく、それはもう素晴らしく美しい音がし、素晴らしい表現力があるとリストやショパン、ドビュッシーが褒めたたえたということです。(でもショパンは別のメーカーのピアノを愛用していました)


 

 ところで私は人の演奏を聴くのが苦手です。


 大勢の中で遠くにいる一人の人が話す内容が頭に入り難いです。(教室での授業をイメージしてください。先生の話を聞いていない子、聞けない子です。)


 コンサートではかなり意識して集中しないといつの間にか、他のことを考えてしまいます。



 そんな私でも、自分が弾いた曲は無意識で集中して聴くことが出来ます。


 たまたま、私にとって良いプログラムでした。


 知っている曲と弾いたことがある曲がほとんどだったのですよ。


 しかし、リュビモフさんが弾き始めた瞬間、頭の中で???となりました。


 これが、ベヒシュタインの音?


 くぐもったようなソフトペダル踏みっぱのような、しかも調律が甘い感じです。


 お客様は、玄人ばかりと思われる150名ほどの小さなホールでしたが、皆様うっとりとされて聴いていらっしゃいます。


 多分、150名の中の私一人がベヒシュタインの音の美しさを理解出来ていないのです。


 美しくないとは思わないのですが、わからないのです。


 もちろん、リュビモフさんの演奏は素晴らしいと判ります。

 でもベヒシュタインの音を特別に優れて美しいとは思わないのです。


 例えば、生まれて初めて鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)の音を聴いて、美しいとは思えない感じです。


 鍵盤ハーモニカを素晴らしい技術で演奏されれば感動ものですが、音自体は優れて美しいとはほとんどの人が思えないでしょう。


 でも、ベヒシュタインの音を自分以外のみんなが美しいと思うのならば、私も美しいと思って生きていこうと思いました。


 だってピアノの先生だし…。


 と思いながら、これを書いてる最中に、ベヒシュタインの美しさに気づいてしまいました。


 私ってば、なんと間の抜けた脳を持っているんでしょうか…。

 コンサートから一週間も経ってハッと…。

 

               

                  続く


 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る