第二章 はじめましての大騒動!_1
高窓から
「これが、学食……」
どこまでも続く長テーブル。次々と運ばれてくるお皿を
壁ぎわにはズラッとフロックコートの
私、クラシックなんて
となりの夏さんのマネをしながら、ぶるぶる
なんでこんなにフォークもナイフもスプーンも山ほどあるの!?
一本ずつにすれば、いや、
うろうろ手を迷わせながら、夏さん助けて……と横を
と、彼はやっぱり素知らぬ顔だ。空気な私に気づいてないだけかもしれない。
彼は長くしなやかな指先で、
……そういえばこの人、手がやたらとキレイだなぁ。
視線を感じたのか、ようやく彼の目がこっちに動いた。
「春臣、
「いえっ、
そうだ、「僕」は春臣さん! 男子っぽい言葉づかい!
「だっ、だいじょうぶダゼ!」
なんかアニメのヒーローみたいなノリになってしまった。
「…………そう」
「…………はい」
夏さんは
と、向かいの席に座ってた男子が、食事の手を止めた。
彼はツーブロックの今ドキな
後ろに
さっきの自己
夏さん
私、何か失礼しちゃった? それともバカ
「おい、春臣。お前、さっきからフォークうろうろ、もだもだもだもだうっとうしいんだよ。オレが目の前じゃ飯も食えねぇって言うのか」
「ま、まさか、そんなことないで──ないよ。三条くん」
ただフォークとナイフとテーブルマナーに
「三条クン、だぁ?」
彼は全身トリハダをたててブルッと震える。
あ、ヤバい、呼び方ちがったかな。
「彼は、冬馬って呼び捨てだよ」
夏さんの耳打ちにあわててうなずくけど、今さら
三条クン、もとい冬馬は、目をますます
「……春臣。お前まさか病気か?」
「ハッ!?」
「全体的に弱々しいっていうか、
「やっ、あの、病気とかではないよ。
笑ってごまかしながら冷や
やっぱり外側だけ春臣さんに似せたって、中身が変わらないと、そうそう存在感なんて出せるもんじゃないよ。
すると彼はいきなりテーブルごしに腕を伸ばしてきて、私の手首をガシッとつかんだ。
「ひえっ!」
「……なっ、おい! このへにょっへにょの細っこい手首はなんだ! どれだけ
「忘れてないよ!」
反射的に返事したけど、なんの再戦!?
夏さんに目を向けると、「三条は古武道家元の跡取りだよ」とまたささやく。
古武道?
「君、データブックをちゃんと読まなかったのか?」
「よ、読みました。でも春臣さんの『僕の
小声のイイワケに、夏さんは額に手をあてて息をつく。それ、お母さんがテストで0点とったコにつくタメ息だ。
「俺たち三人、
そんなくだらない事情の再戦まで、私、身代わりできませんから!
「何をヒソヒソ話してんだよ。春臣、お前さっさと
冬馬のぎらぎら光る目ににらまれて、私はヒッと息を引ききる。
「それはええと……、七月以降のスケジュールで調整してほしいなぁ、なんて」
「そんな待てるわけねぇだろ! 一ヶ月でカラダ立て直してこい!」
声を大きくする冬馬に、彼の隣の美形、伊集院くんが、初めてテーブルから顔を上げた。
彼は
「……さわがしいなぁ。ボク、
彼はぼそぼそっと、口を動かすのもメンドくさいっていう様子でつぶやく。
「あっ、すみません」
私は
「なんだよ、秋人だってさっき、メイドにキャアキャア言われてたじゃねぇか」
「いつものコトだから、別に。女子の声は小鳥のさえずりと同じだ」
それきり興味を
この二人、めちゃくちゃ気が合わなそうだけど、同室で大丈夫なのかな。
でも今、聞き捨てならないコトを言ってた。「ヘビーな仕事がある」って、つまり彼も学生にして働いてるってことだよね。
「夏さん、もしや彼も勤労学生ですか」
ひそっと聞けば、夏さんはうなずく。
やっぱり!
ってことは、このお坊ちゃまお
彼もハイソサエティになじめなくて、このテンションの低さ? ロココな貴族みたいな容姿だけど、意外と苦労してるんだな。
口には出せないけど、私はお仲間ですよ、伊集院くん。
心の呼びかけが届いたのか、彼は重たそうなマツゲを持ち上げ、私を見る。
──ゴミを見るような、さげすんだ目。
ガタッと
灰のように白くなった私が我に返った時には、彼はすでに食堂から消えていた。
し、心臓が、ひび割れた……!
すると夏さんがナプキンで口もとをふきながら息をつく。
「彼の仕事はファッションモデルだよ。海外ブランドの
「……そういえば、どっかで見たことあるような……」
私、世情にウトいんだ。
でも言われてみれば、あの美しい顔、駅のポスターとか、ファンスタで流れてきた写真に
なにがお仲間だ。天と地の差があるわ。
「伊集院は母親がイギリス人で、ここに来る前はあちらのスクールにいたそうだ。今後も、仕事で行ったり来たりになるらしいね」
ひそひそ教えてくれながら、夏さんはふいに私を見下ろした。
そしてなぜか、くちびるのハシをニッと持ち上げる。
「仕事で
いっ、いじわるだ……っ!
「俺も先に失礼するよ。ごちそうさまでした。これ食べていいから。甘いの好きだろ」
さっさと食事を終えた夏さんは、デザートのケーキに手つかずで席を立つ。
ああ、気が遠くなってきた……。
私は打ちひしがれながら、いまだニラみつけてくる冬馬に、へにゃりと、ごまかすような
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