3篇:人間牧場・壹
――――――― 2 ―――――――
3人を乗せたバギーは、
村、と聞いていたが、その景観は全く印象が異なっていた。
――シンクア。
ハイウェイ・ルート121に程近く、ルート14、114、117の3本のハイウェイに隣接する城塞型の集落。
町と云って差し支えない程の規模であり、中小規模の
天然河川の
その豊かで汚染されていない天然の水資源は、北に位置する“まほろばの都”ジョージに送られている。
より正確には、水はジョージの管理下に置かれ、そのジョージから送り込まれた
住民は、4つの身分制度に分けられ、上から順に、
この身分制度は、比較的広範囲でよく
──
シンクア到着前にバギーは乗り捨てる。
見るからに
ハイウェイに面した城門脇の
覗き
カップルの男の方が、シンクアの元住人で親元への里帰りの
小さな集落と違い、ある程度の規模を誇る町では外界との
シンクアに入って
「俺達が村を出た時とは、何もかも違っている…」
「……」
「ジョージから“
「――
「実家は同じ場所にあるんだうか?
「――行くだけ行ってみれば…」
「あ、ええ。そうしましょう!」
――ここの角を曲がって直ぐ右なんだが…
ブツブツと
典型的な
男は断りも無く、その小屋に入る。
中には、50代と
「母さん!」
「!?ユウジ!ユウジなの?」
「そうだよ、ユウジだよ!」
「ぁあ、生きていてくれたんだね!立派になったね…」
「心配掛けてゴメンよ、母さん…」
――感動の再会、と云う処、か…
親子の話を聞くに、まほろばの都からの侵略者が村に
よく聞く話。
当事者以外、
「…でも、どうして今、こんな処に帰ってきたの…」
「……俺達、子供が生まれたんだ…」
「孫!
「…い、いや。それが…」
「どうしたの?早く抱かせて頂戴、孫をっ!」
「――サチ、こっちに来てくれ…」
「………」
大事そうに抱える毛布を揺すり続ける女。
呼び掛けに応じる様子はなく、
サチ、と呼ばれた女性。
そう彼の妻は、残念だが、もう壊れている。
――
只、その
ユウジは、サチが抱える毛布を取り上げ、母親の前に戻る。
――うっ、あっ、あ、あぅあっ…
サチは、曇った瞳で毛布を目で追い、言葉にならない吐息を
息子から毛布をそっと渡された母親は、嫁を見て訝しげな表情を浮かべるも、直ぐに毛布を優しく
「サッちゃん、どうしたの?具合でも悪いの?」
「……ああ…」
母親は、毛布を
その
――ギャッッッ!!!?
母親は、ギョッとした表情を浮かべ、思わず、手を滑らせ、毛布に包まれた赤子を落とす。
半開きだった口を真一文字に
するり、と毛布が
見るも
ぱっと見で分かる
蟲が
混沌たる
ベクシンスキーやギーガーの描く正に其れ。
母親が
それ程
ユウジが
遠く離れた
生まれた
妻のサチは、そのショックで気が触れ、
母親は涙ぐみ、今や動かぬ我が子を抱え
今の時代、
そんな折、母親は、ふと顔を上げ、少女を見た。
「…そちらの
「殃餓共に襲われた処を、彼女が救ってくれたんだ」
「そんな小さな外国の娘に?」
「そうなんだ。それはそうと、彼女に
「そうね、分かったわ。直ぐに
──狭い風呂場
――生き返るようだ。
実に久し振りのシャワー。
それ処か、
乾いた心に恵みの雨、そう思える
掘っ立て小屋にも関わらず、狭いものの風呂場があり、汚れを洗い流し、
この町は、本当に水が豊富なんだ。
小さな
聖堂に描かれた天使の姿。
教会音楽でも流れて来ても不思議ではない
床を伝い流れる血の汚れとのギャップが
――不意に、耳を澄ます…
風呂場と他を
ユウジと母親の声が聞こえる。
「ところで、親父はいつ戻ってくるんだい?サチと子供の事、親父にも話さないと」
「…戻って来られないよ……」
「え!?」
「…牧場に収容されてしまった…」
「牧場??」
「……人間牧場…」
「人間牧場!?何なんだい、それはっ!!?」
「
「家畜人!!?それって、
「…そうよ…父さんは、
「ど、どうして!?」
「総督バズソーの遣り方に抗議して連れて行かれてしまった…」
「…そ、そんな……」
――
もう一度、瞳を閉じて湯に浸かる。
湯の暖かみが、故郷の大地を
──湯上がり
風呂からあがった少女を待つのは、ユウジの母が作った手料理。
質素だが、どれもよく
十分な量とはとても云えないが、それでも恐らくは客人を持て
それにしても、この国の食事は、どれも
「さぁ、たんとお食べ」
「
「名前は、なんて
「――
「ノンナ?ノンナちゃんは、
「―
「?あらあら、何処だか全然分からないわね~」
「――
「どうかしら、味は?異国のお嬢さんの口に合うかしら?」
「―
「大丈夫そうね、良かったわ」
「――
母親は、気を
それより、ユウジが
「ノンナ!」
「
「実は…
「――」
「親父を、俺の父を救うのを手伝ってくれないか!」
「
「え?」
「――わたしは、正義の味方じゃない。
「…そうだよな……いや、済まない。聞かなかった事にしてくれよ…」
「――」
「…ゆっくりして行ってくれ」
「食事を終えたら、直ぐ
「!?いや、済まなかった!本当に気にしないでくれ。旅の疲れを十分
「
「そ、そっか…」
「…
部屋の角に小さな
その真上に位置する
その写真に写った男性が、恐らく、彼の父親だろう。
未だ、生きているであろうに、
母親は、分かっているのだろう。
もう、父親には会えないだろう、と。
サチは、相変わらず毛布を抱く。
毛布の中身は、ぬいぐるみにすり替えられている。
それでも熱心にあやす。
彼女も亦、母親だった、のだから。
程なく食事を終えた少女は、
他には、何もない。
彼の母親は、寂しそうな表情を浮かべる。
「本当にもう、行ってしまうの?」
「
―これを持って生きなさい。
小さな袋に飾り文字。
この国古来から伝わる縁起物の
だが、その
「体に気をつけるんだよ」
「
「さようなら、ノンナちゃん。またね」
玄関に立つ。
サチがこちらを見ている。
感傷に
此処に
本能が
――さよなら、優し過ぎる
──夕暮れ時の
公園
旅人は元より、住人さえ立ち寄る事は出来ない。
大きく南を迂回して、東を目指す。
何より城壁に
ユウジの実家を出た後から、
だからこそ、見逃してきたのだが。
角を曲がった人影の無い
『
感覚的に
薄い
「――何の用?目的地には、これから向かう」
「その前に1つ、やって貰いたい事がある」
「――それ、断れるの?」
「
「――そう」
「そうだ」
「…で、内容は?」
「まずは、これを見てくれ」
男は、プラフィルムを差し出す。
そこには、
「
「この男は、シンクア総督、バズソー」
「……で?」
「彼を、
「――
「断れはしない。契約、だ」
「――
――簡単に
伝える事だけ伝えると、仲介人は立ち去る。
実に、事務的、効率的。
そして、冷たく、機械的。
恨みの一つもない、
夜の
色素の薄い瞳を、やけに
痛い。
瞳が?
――早く
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