小説のHDリマスターって……なにするの!?

ちびまるフォイ

この小説はHDしています。

「小説の発表にあわせてHDリマスターをしようと思います」


「HDリマスター!? え、小説ですよね!?」


「はい。リマスターします」


編集に言われてとまどいはしたが、

これも小説家デビューの大チャンス。


とにかくやるしかない。


「小説のHDリマスターってなにすればいいのかな……。

 あ! そうか! 書き込みを増やせばいいのか!」


WEB小説から書籍化するにあたって、文章を校正するのはよく聞く。

きっとそのことをHDリマスターと表現していたんだろう。


俺は風景の描写や、キャラの描写をより繊細に書き込んだ。


「うん! ばっちりだ! これがHDリマスターだな!」


新しく書き直した小説を編集に持っていくと、編集はその場で小説を食いだした。


「ええええ!? な、なにをするんですか!?」


「なにやってるんですか。こんなのはHDリマスターじゃないですよ。

 逆にテンポ悪くなってるんじゃないですか」


家に帰ってからもぐるぐると頭の中でHDリマスターという言葉が回る。


「書き込みを増やすことがHDリマスターじゃないのか……。

 それじゃあいったいどうすれば……」


他の小説を呼んでいるなかにヒントを見つけた。


「まさか……挿絵か!?」


小説に挿絵はつきものだが、その絵師の力はひとによってさまざま。

そうか、HDリマスターとは絵師のグレードアップだったのか。


札束をばらまいて有名な実力は絵師に挿絵や拍子を書いてもらった。


「うおおお! すごい! 完璧なできばえだ!!」


中身は変わってないのに絵が変わるだけで違って見える。

絵のクォリティにひっぱれて唯一無二の名作に見えてくるから不思議。


「まちがいない! これがHDリマスターなんだな!!」


編集に見せに行くと、編集はびりびりに引き裂いた。


「ちっがーーーーーーう!!!!」



「えええええ!? これもちがうの!?」


「こんなのはHDリマスターじゃなーーい!!」


ここまでさせておいて、相変わらずの態度の編集に俺も我慢できなくなった。


「もういい加減にしてください!

 小説の発売は明日なんですよ!? 発表会だってあるんです!

 いったいどうすればHDリマスターできるんですか!!」


「いいか……HDリマスターっていうのは小説じゃない」


「は?」


「お前のことなんだよ!!」


「はああ?」


 ・

 ・

 ・


数日後、なにも手を加えられていない状態で小説発表会をむかえた。


「編集さん……結局、リマスターってどういうことですか……」


「お前をリマスターするんだよ。

 ブサイクな小説家がちょっとエッチな小説を出したら

 それはもう児童ポルノ違反だが、イケメンとなればそれは芸術だ」


「それで俺、整形させられたんですね……」


当日はテレビの取材も来てイケメン小説家として連日報道された。


誰も小説は読んじゃいない。

作者の評判がいちばん大事なんだと、握手会のような列を眺めて思った。



「ちなみに、HDってどういう意味だったんですか?」



「H(ふつうに)D(だす)ってことさ」


「まぎらわしいわ!!!」


俺はイケメンパンチで編集をぶっとばした。

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