第10話 松平家VS織田家の謀略と戸田康光の謀略

  信長の退却後、信長を追撃するも決定的打撃を与えられずに秀康は一度、みよし市戻り、状況の整理と占領した地域の支配を固めた。豊田に関しては暫定的に石川数正殿に任せることになった。

 酒井忠次には今川義元との交渉のために駿府へ行くことを命じた。その後、秀康は寝返った山口教継と中央を担当する吉良義昭を含む諸将と打ち合わせするために少数の家臣を連れて鳴海城と大高城に向かった。


 向かう上での人選をしていると石川数正殿が来た。


「私も連れていってください!」

「えっ数正殿は豊田に…」

「大久保忠世殿に任せてきました!!」

「お、おう、それならいいよ…」

「ありがとうございます!」


 という形で数正殿が付いてくることになった。


 随行する武将は以下の通りである。


 西郷正勝、石川数正、本多忠勝、榊原清政、康政、大須賀康高、本多正信、鳥居元忠、平岩親吉

 本多富正、夏目吉信、小栗又一、植村家存、内藤正成などである。


 その他、モブ本多含む数十人である。移動は車両で行う四号戦車三両、三突二両、軽車両、装甲車両、トラックが含まれていた。


 移動中は秀康にとっても緊張する瞬間であった。今川方の勢力圏とはいえ、織田方に通じる者が潜んでいたり、今川方にいる反松平勢が暗殺を仕掛けてくる可能性もあったためである。

 秀康の乗る車両に同乗したのは富正と数正殿だった。秀康の緊張を解そうとしたのか数正殿は終始笑顔で秀康に話しかけた、これに富正も便乗して車内では和やかな雰囲気が作り出された。


 三豪傑こと正信と忠勝と康政+康高&清政が違う車両に乗りながら通信してゲームで遊んでいた。


「そこはダメ!クソッ!」


 などの声や笑い声が周囲に聞こえていた。


 一行が最初に向かったのは寝返ったばかりの山口教継の居城:鳴海城である。


 広忠陣営


 広忠公の居住している本多重次邸に吉良義安が訪問していた。


「義安殿、何ようかな?」

「岡崎に動きがありまして…」

「ほう…」


 このどころ城代の康光の周囲が騒がしいと感じた義安はドジッ子の振りをしながら大胆に康光陣営の部屋を探り、ある証拠を手に入れた。


「これを見てください!」

「どれどれ(..)ほうほう…」


 渡されたモノはスマホで撮影されたものを写しとった書類である。


 内容は康光が秀康を織田方に内通しているという嫌疑をかけるために康光が密かに織田方の弥七という人物と接触しているということを示唆する書類だった。


 この情報は秀康にも伝令を通して伝えられていた。


 鳴海城は大高城より名古屋の中心に近く、今川の最前線では突出部に当たるため危険な場所であった。そして山口教継が信用出来る人物か今だ謎であった。


「ここが鳴海城か…なかなか立派だな!」


 秀康の言う通り、鳴海城は想像したよりも整備が整っており、堅牢な城だった。


「では参るとするか!」


 待機組として清政、康高など数十人を残すことにした。


 城に入る陣形としては以下の通りとなった。


 一番先頭を忠勝がズンズンと完全武装で歩き、その後ろを夏目と小栗が左右に分かれて続き、次に秀康と正勝が並んで歩き、その後ろを富正と数正殿が左右に分かれて続き、その後ろに植村が続いた。


 中間組として正信と康政と数人のモブ本多が続いた。


 最後尾を鳥居元忠と平岩親吉と数人の兵士が続いた。なお全員完全武装であった。


 歩いている間、忠勝や康政が険しいのに対して正勝、数正、正信辺りは穏やかな顔を装っていた。


「教継殿とは、どのような人なのか…」


 結果だけを言おう、警戒は無駄だったと断言できるほど秀康たちは歓迎された。教継殿と娘の教吉が出迎えてくれた。


「秀康様、来ていただいて感謝いたします」

「これは!これは…」(ニヤニヤ)


 娘の教吉は清楚そうな美人で秀康は顔がニヤけてしまった。


 両者の話し合いは社交辞令から始まり…本心を探り合った結果…秀康は彼らを信用できると判断した。


「ところで教継殿!」

「なんでしょうか秀康様?」

「これを見ていただきたい!」

「どれどれ(..)うん?!これは…」

「それを見てどう思う?」

「どう思うと申されますが…」

「では逆にどうすれば良い?」


 秀康が教継殿に近づいて問う…その顔を見て真意に気付いた教継殿は、それまでの呑気な顔から豹変して秀康に話しかける。


「では、こちらも一計を案じるのはいかがでしょうか?」

「一計とは?」(すっとぼける)

「逆にハメるのです!」(ゲス顔)

「それは良い考えですな!」(ゲス顔)

「「ハッハッハッ八ッ!」」(笑い合う二人)


 それを傍から見守る家臣達がいた。(大部分は呆れて引いていたが正信と教吉は同じゲス顔だった。)


 鳴海城では美味しい昼食を食べた、ついでに美味しいジュースを教吉殿についで貰って上機嫌になる秀康がいた。


 秀康は笑顔で手を振って送り出してくれる教吉殿に見送られて大高城に向かった。


 大高城では今川の大軍が駐留する一方で物々しい感じで秀康達は鳴海の方が面白かったと後悔した。


 秀康達が今川の諸将が集まる会議に出席して会議が始まると今川義元の命令が伝えられた。


「織田方に対して総攻撃をかけよ!」


 この命令は『織田家を滅ぼせ!』という趣旨よりは尾張侵攻の決着を付けて上で作戦を終了するためにも皆で『戦果を挙げて引き上げよ!』という趣旨が強調されていた。そのため、当初は遠江国の勢力や秀康などは無難に総攻撃をかけて一定の成果を上げたら後詰めを残して撤退する予定であった。


 また、秀康は酒井忠次を通して今川義元から七千億の貸付を引き出すことに成功しており、大高城と鳴海城の再整備と改築の許可も貰ってきていた、これらが成功するまでの時間稼ぎを重視した作戦計画にしていた。

 これらは撤退後の地域の安定化と『出陣と挙げた戦果に対する』義元公からの恩賞を期待した諸将からは支持され、流れ的には秀康案が採用される雰囲気で固まりつつあった。


「私は反対だ!今こそ!織田を滅ぼすべきだ!!」


 突然、義昭が立ち上がって織田を滅ぼせ!と主張を始めた。これには秀康を含めて多くの諸将が困惑した。


「しかし…織田を滅ぼすのは時期早々では無いか?後方には美濃の斎藤家もいるし、守護の斯波義銀様も健在で織田家を支持している状態で尾張を占領するのは難しいし、仮に落とせても統治は不可能だ!」


 こう主張したのは遠江の国の井伊谷城主の井伊直盛だった、これに菅沼定盈、飯尾連龍が賛同する。


「この意見には岡崎城代の戸田康光殿も賛成している!!」


 今川義元から直々に任命された城代の後ろには強い威光があっただけに出席していた諸将達は困惑する。


「なら聞きたい!織田に勝てる根拠はあるのか!!」


 こう切り出したのは飯尾連龍だった。


「ある、既に康光殿が準備をしている!!」

「なに?…」


 本当に勝てる自信があるように自信満々に主張する吉良義昭に諸将達は混乱した、多くの者が言い返す材料が無く、無言となってしまう。


「ここはお手並み拝見と行くしかありませんな…」


 菅沼定盈が苦し紛れに言葉を吐き出すと諸将達も同意した。


 秀康は黙して反論をしなかった。義昭と康光の自身の根拠が掴めずにいた。

(いったい、奴らは何を企んでいるのだ?)


 とりあえずは織田に総攻撃をかけることで会議は合意して終わった。


 秀康は初期目的を達成しているので現地住民と三河から呼び寄せた建設業者を使って大高城の大規模改築を開始した。周辺の土地を強制的に立ち退かせたりするため周辺の住民からは反発があった。


「三河に侵略した奴らから土地を奪え!」

「ヒャッハー俺らの土地だー」

「ざまぁ!見ろ!!」


 などと何処吹く風で三河から来た兵士と業者は喜々として作業を進めていた。


 この包囲網を作りだすかのような松平家の状況を織田家が危機感を抱いて見ていた。さらに孤立する緒川の水野家と信行軍に対して救援をしなければいけない状況も拍車をかけていた。


 戸田康光陣営


 この日、気分の良い康光は壺を磨きながら呟く


「織田信行が我らに付いて反逆すると誓っている!これで大部分の戦力を投入できる!!勝機は我らに有り!!」


 ハッハッハッハッと笑う康光がいた。



 それぞれの思惑が重なる中で戦いは激しく燃え上がろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る