第8話 織田信長という人物

信長という人物は不思議な人物だった、若武者達と町をねり歩きながら名古屋の街を彷徨う姿は普通の不良少年のようであった。時にライブハウスに出かけたり、カラオケを楽しんだりしていた。庶民に対しても「俺がお前らを豊かにしてやる!」などと言いまわりながら老若男女問わず気さくに話しかけたため庶民からは人気が出た。

 一方で支配者階級からは嫌われた「服装が悪い!」だの「礼儀がなっていない!」「夜中まで遊んでいる!!」などと彼らは騒いで信長を嫌う傾向が強まった。


 この意見は庶民も支持する面はあった、確かに信長には奇行ともとれる行動があったからである。しかし、実は庶民レベルで信長の批判は全く起きなかった。あくまで批判は上流階級だけであった。

 この上流階級共は自分たちの意見は庶民も支持している。という根拠の無い自信を持っており、しばしば歴史上で偏見のある庶民論を口にしては歴史を誤った見方で後世に伝えたりする、さらに酷いのは上流階級が起こした戦争や政治問題の責任を無責任にも不特定多数の庶民に押し付けたりするのも彼らである。


 ※信長も上流階級だが改革派で庶民よりの考え方をしていた。実際に庶民が宗教上の理由を除いては信長に対して明確な敵対意識を示した事例は無い。また、戦国時代は庶民=武士、公家、寺社勢力に属す人以外である。そのため商人も庶民に含まれる。この考え方は江戸時代まで続いた。


 このような存在どものせいで信長像は歪められたが…信長が身近で活動する地域では論より証拠の状態であり、レッテルなどというものは霧散して消えてしまった。


 信長の行動には全てと言って良いほど明確な意思による行動が伴った。だいたい織田家というのは松平清康、広忠など数多くの人物を暗殺した暗殺一族である、尾張の政財界に分家の分家ふぜいの織田信秀が暴れまわれば恨みを買い、いつ暗殺の手が息子の信長に届くか分からない状況であった。


 この状況下での生き残りのため信長は城に立て籠るのでは無く、あえて町中や上流階級の支配が及びにくい不良の溜まり場や貧困街に溶け込むことで身を守ったのである。実際に信長は自分の周囲を屈強な家臣の子弟達で固めながらの移動であり、彼らは軽装備とはいえ武装していてマフィア程度となら抗争して勝利出来るくらいの装備をしていた。


 不良達の中には上流階級の子弟や関係者も多くいた。こいつらと親しくなって彼らの情報を引き出すことすら可能だった。時には庶民の協力者を敵側に下働きに出させるなど間諜の役割までさせることに成功した。


 尾張は日本の中央部分に位置していて人や物が集まった、当然のことだが情報も沢山集まる、上流階級達よりも正確で庶民が見た裏の真実を知っているトラック運転手、船の船員、商人、元下働きなどに信長が近づいて一杯のお酒でも奢って少し褒めてやれば意外と滑らかに話してくれる奴も大勢いた。


 信長が新興の財閥に近づいたのも上流階級から嫌われていたからである。その中でも生駒家は信長の大のお気に入りとなった。

 ある日生駒家に有能な人物がいるから紹介したいと言われて呼ばれた。生駒家の邸宅は和風ベースの家である。


「俺じゃ!紹介したい奴とは誰だ!」

「信長様!紹介したいのは奴でございます!」


 信長が案内された場所にいたのは見るからに成金趣味の派手な服と甲冑を着た黄色い髪の女性だった。


「おうおう、顔を上げよ!」


 そう信長に言われて『あざとい』ほど畳に擦りつけるように下げていた頭を女性は上げた。

 顔はサルのように愛嬌があり、屈託のないというよりは『あざとさ』を感じる雰囲気を女性は出していた。


「名を何という!!」

「はい!藤吉郎と申します!!」

「元気が良いな!名だけか?」

「そうなんです!卑しい身分の出身のためです!!」

「風俗でお金を稼いだのか?」


 そう言われると藤吉郎は手に持っていた扇を二つ出して演目をするように妙な動きをしながら話し出す。


「とんでもございませぬ!それがしは真面目に働き、これでも遠い江と申します国では下働きながらも主人殿に、たいそう可愛がられ、一応は木下という名を頂きましたのですが…信長様の噂を聞きつけまして「これは居ても立っていられない!」と信長様の元にかけ参じたのであります!!」

「名があるでは無いか!!」

「これはとんだご無礼を致しました!」(土下座)

「そち面白いな!」

「あり難き幸せでございます!」

「俺の下働きとして特別に働かせてやろう!!」

「ああ、あり難きやあり難き!この藤吉郎!信長様のためならば足でもケツでも接吻しますぞ!」

「気持ち悪いぞ!サルめ!!」

「はてさてサルなどおりましたかな?」

「おまえじゃ!」

「なんとぉ?!この麗しの藤吉郎がサルだと申しますか!」

「そうだ!!おまえはサルに似ておる!故にサルだ!!良いな?」

「分かりました!今日から藤吉郎改めて信長様から頂きましたサルを名乗りましょうぞ!!」

「うむ、頼むぞ!藤吉郎!!」

「あり難き幸せです!」(土下座)


 これが信長と藤吉郎の公式での初めての会談となったと伝えられる。


※信長と秀吉の出会いは諸説ある。しかし、秀吉が信長と会う時には既に秀吉は一定の社会的地位と財産を手に入れていたと解釈するのが有力である。



 次の日、藤吉郎は『みすぼらしい』黄色い服を着て草履で町を走り回った。信長がディスコで遊ぶ時に同行したら、急にディスコ会場には無いジュースが飲みたいと言い放ったので藤吉郎は買いに町を走ってきた帰りであった。


「信長様!ジュースを買って来ましたぞ!」


 ハァハァ言いながら藤吉郎が信長にジュースを渡す、ジュースは走り回った割には不自然に冷えたままだった。


「なんだ!冷えてるぞ!!」

「信長様のためにクーラーボックスに入れて持ってきましたので!!」

「クーラーボックスはどうした?」

「店の人に預けました!!」

「さようか!ところでサル?」

「はい!なんでしょうか?」

「他の者のジュースは無いのか?」

「これは失敬!私めはサルのため一度覚えられる単語に限りがございまして…」


 そう言うと信長の近くに控えていた森可成と前田利家にそれぞれ近づいて深く頭を下げて謝る。


「では、お二人のジュースを買って参ります!!」


 二人が何のジュースが欲しいかを聞かずに走って出ていこうとする。それを利家が止めようとするが信長が利家を止める。


「イヌよ!止める出ない、奴は分かっておるのだ!」


 これを近くで聞いていた他の家臣達は「信長様は何を考えているんだ?」と首を傾げる者が多い中、最近になって信長に仕えた滝川一益は信長の真意を見抜いていち早くサルの脅威に気付いた一人である。


 ※ジュースを走り回って買ってきたのは事実である、そうしないと信長の機嫌が悪くなる。

 森と前田のジュースを持ってこないのは信長の性格を理解しているためである。誰よりも一番に貴方を考えています!というアピールがあり、三人に持っていくというのは信長を二人と同列に扱う行為である。なので、二人が何のジュースを求めているかは理解している。


 信長は既に後の重臣となる人物を召し抱えており、この時期には自らの野望の天下統一に向けて準備を始めていた。生駒家は莫大な財、勇猛な家臣、外から来たが最新技術や周辺の情勢に通じる滝川一益と木下藤吉郎を召し抱えていた。


 織田信秀が死んだ、死んだ途端に織田家内で家督を巡る争いが起きた。反信長派は結束して信長の弟の信行を擁立して信長に反旗を翻した。


 織田信行は信長の弟で信長に比べれば利発そうで大人しく、武術や礼儀作法も良く出来た男だった。近くで働く女中には三人の美人がいた、この三人は名を名乗らずに『赤鶴』『青彩』『黄猿』と名乗った。それぞれ美人で可愛く、気立ても良く、仕事もでき、優美な女子達だった。この三人の美人は家柄も良さそうだったので評判は高く、信行の評判を益々良いものにした。


「兄上を討つ!!」

「「おおおおおお!!」」(複数の声)

「信長の兵力は風前の灯ぞ!」


 信行が言うように信長の付き家老だった一番家老の林秀貞を含めて林通具、柴田勝家など織田家の実力者が集まり、兵力は一万ほど集まった。これは三河と美濃の国境近くに配備されている兵力を除けば織田家の動員可能兵力であり、最大であった。


「爺やは何をしているのだ?」


 信行が心配したのは佐久間信盛である。彼は信行の一番家老であった。


 信長陣営


 信長陣営は静まりかえっていた。兵力は少ないが士気は高い、しかし、せいぜい二千いれば良い方だった。


 信長は床几の上で苛立ちげに何かを待っていた。周りにいる若い家臣達も焦りを見せている。信長の付き家老の平手政秀などは胃が痛いと言いながら退出していた。そんな空気が漂う陣屋に二人の男が入ってきた。


「信長様!今到着しましたぞ!」

「その声!信盛か!!」

「はい、信盛でございます!信長様、我ら佐久間一族は信長様に加勢致しますぞ!!」

「爺や!来てくれて嬉しいぞ!!」

「もちろんでございます!信長様の第一の忠臣である、佐久間信盛!信長様の危機と聞いてかけ参じましたぞ!!」

「頼むぞ!!」


 入ってきたのは佐久間信盛と佐久間盛重の二人であった。そう信行の第一の家臣と見られた信盛は織田家の重臣の誰よりも早く信長の才能を見抜いた人物であった。


「佐久間が来たぞ!!」

「これで勝てる!!」

「うおおおおおおおお!!」


 ※佐久間信盛は信長の天下統一の最大の功労者、良く信行の方が才能があると周囲は考えていたと言うが…織田家の最有力者が信長に味方しているという事実は見逃せない。



 三河との国境を守る最精鋭の登場で信長陣営の士気は最高潮に達する。信長軍は数では佐久間勢を足しても五千に満たないが信長の若い武者たちの軍勢と佐久間の最精鋭、そして最新鋭の戦車『M4シャーマン』を加えた機甲戦力を有していた。


 戦いは呆気なく終わった。信長陣営の圧勝であった。機動力による奇襲に加えて最新鋭の戦車『M4シャーマン』VS『M3リー先生』の対決は言うまでも無い、信長勢の若い武者達の活躍と武力90近いモブ佐久間の力の前に信行は大敗した。


(殺されるに違いない)


 そう覚悟した信行陣営だったが…信長は寛大で全員を解放して此度の責任に関しては…


「是非に及ばず!」


 とだけ発言して終わりとした。


 その後、信長の主家筋に当たる織田大和の守が尾張守護大名:斯波義統を攻め滅ぼしてしまう事件が起きた、息子の義銀は川遊びに出かけていたために命を信長に助けられて一命を取り留めた。そして信長は織田大和の守に主君殺しの罪で攻め上がり、主家筋を滅ぼすことに成功した。


 ここに尾張国における信長政権の確立が成功するかに見えたが…


 まさに丁度、この頃である今川義元が大軍を動員して尾張侵攻計画を発動したのは…


 ここに織田と今川の大規模な戦いが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る