はにかみ

立ち上がって、彼の顔を見た。

先ほど彼がそうしたように、探るような視線を向ける。

少し見上げる形になる。

彼がこんなにも背が高かった事実も、初めて知ったような気さえする。

優しい顔立ちと、高い背と、よそ行きのスーツを着こなした姿と、

知識豊かな純粋さ、人を包み込む包容力も、彼を男としてみるには十分だった。

もちろん今後将来を共にする、1人の男。という意味で。

私はこんなにも良い人を、やすやすと無下に扱っていたわけだ。


「婚約の話は知っていたよ。」


彼は驚いたり、恥じらったりする素振りも見せず言う。

なら手紙を見たときの饒舌は演技だったのだろうか。

それは…ある意味少し残念かもしれない。


「あらそう。ならそう言えば良かったのに。」


これは半分本心だった。

もし言ってくれれば、憂鬱な気分で話を切り出すこともなかったのに。

いや、私の考えが至らなかっただけか。

両親が、彼を無断で私の婚約者に仕立て上げるわけがない。

してやられた気分だ。

そう思いながら、彼を避けて後ろの本棚の、一番下の引き出しに手を伸ばした。


「からかいたくなってね。

まあ御両親への手紙を読んだ時はちょっとばかり心が痛んだけど。」


なんだ、それならあの饒舌は半分は本心で、傷んだ心を紛らわせるためだったのか。

なぜか少し安心する自分がいる。

引き出しの中をごそごそ漁りながら、私は彼に答える。


「あなたってピアニストだから、

惚れた相手には曲でも作って告白する気かと思ったわ。」


小さく笑ってそう返した。


「流石に引くでしょ?」


彼は、私よりも笑いながらそう問いかけた。


「あなたの恋した人がロマンチストならそれも喜んでくれるわよ。」


「君は喜んでくれる?」


「さあね。"エリーゼのために" ならぬ "ミカエラのために"かしら。」


「それはちょっと恥ずかしいな。」


「私もそれは恥ずかしいわ。」


何だか先ほどとは違って小気味良い会話に、

居心地の良さを感じながら、目当てのものを見つけ出した私はもう一度机へと向かう。

顔には間違いなく笑みが浮かんでいる。


「ところで何を探してたの?」


エドワードが問う。


私は振り返って、手に持っているそれを彼に見せながら答えた。


「便箋よ。」


彼は、どういう意味かわからない。 といった様子で私を見ていた。


「父さんと母さんへの手紙。書き直さなきゃと思って。」


エドワードはその意味を理解したらしく、嬉しそうにはにかんだ。

そのはにかみには照れ隠しの意味もあったのかもしれない。

彼は先ほどと同じように、耳の後ろの方を小さくかきながら

ばつが悪そうに微笑んで、聞こえないくらいの声でありがとうと呟いた。


「なによ。あんなクサいこと言っておいて今更照れてるの?」


「思い出すと、ね。」


彼はまた照れ隠しに笑った。右頬にだけ浮かぶえくぼ。

その笑顔が愛おしいと思えるようになったことがとても嬉しかった。

その喜びを噛みしめるように、しかし落ち着こうと努める。

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