act.6 突飛
ヤヒロを追いかけて外に出る、といっても屋敷の外には街らしきものは何一つ見当たらない。
「それにしても立派な屋敷だ…………」
身にしみて思う。広すぎるのだ。そう、あまりに広すぎる。後ろにはどでかい洋館、見渡す限り一面の大自然、遥か遠方には山々が幾重にも連なり、気分はまさに大自然の大きな屋敷、だ。
まるでジオラマ初心者が先輩からもらった立派な屋敷のジオラマを、何も考えずに置いてしまって、自分の作品を盛大に台無しにしてしまっているように思えてしまう。
そのくらいこの空間は異彩を放っている。しかし、それが何故か、こうであるべきだと感じさせられる不思議さも併せ持っている。
「何をボケッとしている?置いていくぞ?」
ほれ、と自らの外套の端をこちらに向けてくる。……?
「置いていかれたいのか?ほら、さっさとつかむ!」
「え?あ、ちょ!」
腕をつかまれ、外套を摘まされた。
この行為に何の意味があるのかと、口を開こうとした刹那、突如目の前の空間がぐにゃりと歪む。
黒い絵の具に白い絵の具をかき混ぜるが如く歪んでいく空間から、二つの柱がぬぅっと姿を現した。
出現した二本の石柱はところどころ石が腐り、コケが生えてしまっている。
どこか廃れてしまった感じのする石柱だ。二本の石柱の間にはそこだけ霞がかったかのように、向こう側が見えにくい。
目を凝らしてなんとか見えるか、といった具合だ。
「さ、街に繰り出そうか!」
やけに嬉々として霞の中へと進んでいく。わけもわからず引っ張られるままに、俺も霞の中に入る。
霞の中を潜り抜けると、喧騒とともに、色とりどりの光が飛び込んできた。
あまりの眩しさに目をつむる。
喧騒の中、つまんだ外套が進むのにあわせて歩みを進める。
だんだんと目が慣れてきた。恐る恐る目を開く。
「!!!!」
なんと、言えばいいだろう……。圧倒的非日常、ファンタジー、画面の向こう側、あまりにも突飛過ぎる光景にそんな抽象的な言葉しか浮かばない。
まるで江戸時代の門前町や仲見世通りを思わせるような町並みだ。
それだけでも驚きなのに、その中で鬼や唐傘などの異形な者達が、和気藹々と、争うことなく日常を送っているのだ。正直頭が追いついていない。
「説明するより見たほうが早いと思ったのだ」
ケラケラと笑うお嬢様は、何故か少し自慢気だ。
こちらに気づいたのだろう、一人の鬼人がノシノシと近づいてきた。この鬼人、3メートルは裕に越えるだろう。
筋骨粒々で、威圧感が半端じゃない。顔には斜めに傷が入り、見るからに恐ろしい。
あまりの迫力に気圧されてしまう。そんな鬼人は俺など眼中にないのだろうか、まっすぐにヤヒロへと向かってきた。
「お嬢じゃねぇですか!今日はいかがお過ごしで?」
「ああ、委細変わりない。元気だよ。大将は?」
「まぁまぁってとこですかね、最近腰がひどくって」
なにやら談笑している。どうやら顔見知りのようだ。
「ところでお嬢、後ろの若ぇのは?」
「ああ、こいつは今日からうちに住まうことになったユウキだ。私の秘書をやってもらうことになっている。以後、私が忙しいときはこいつが巡回することになる。よろしくしてやってくれ。」
そう言ってヤヒロは俺を前へと促す。
「ほ、本日付で、道元家で秘書官を勤めさせていただくことになりました!山河祐樹と言う者です!よろしくおねゴッホ!?」
背中を思い切りたたかれて、息が詰まる。
「堅っ苦しいのはナシにしようぜ。若ぇの!お嬢の秘書官か!気張れよ!俺ァ八百屋
の大将をやっている。これからよろしくなッ!」
八百屋の大将は、ニカッと笑って、そうかそうかとバンバン背中をたたいてくる。
受け入れられてありがたいのだが…………痛い。
「コホン、その辺にしといてくれ大将。まだ見廻りが残っているんだ」
「おっと、仕事の邪魔しちゃあ、いけねぇな」
ヤヒロの助け舟のおかげで、何とか大将のフレンドシップ攻撃から開放される。
すぐに呼吸できるまでには回復したが、かなり苦しかった……。背中の痛みはもうしばらく続きそうだ。
助け舟を出してくれたこの上司に、今日ばかりは頭が上がらないかもしれない。
八百屋の大将に別れを告げ、俺達は通りを歩いていく。少し進むたびに、あちらこちらから住民が向かってきては、ヤヒロの周りに集まる。その都度その都度に、ヤヒロと少なくない言葉を交わす。中にはまだ小さな子どもまで居て、ヤヒロが人気者だということが、ヒシヒシと伝わってきた。
大通りを抜け、田園風景を過ぎ(ここでも色々な人が集まってきた)、少し歩くと、一つの関所が見えてきた。
他に人工物の陰は見えない。関所の入り口までたどり着くとヤヒロがこちらへと振り向いて言った。
「悪いがここからはオンで頼む」
キリリと引き締まったその目に、少しの嫌悪感が垣間見えたのは気のせいか。
「委細承知にございます」
右手を左胸に添え、礼の姿勢をとる。
「では、行こうか」
歩き出すお嬢様のお手を煩わせぬよう、自らの手で、石扉を奥へと押す。
その扉はまるで我々を拒むかのように、重く、軋みながら、ゆっくりと、真っ
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