act.4 异識




 「……い……おい……おい!」

「………………ん」

「やっと目を覚ましたか……」

やれやれだぜ、と妙に様になった調子でため息をついているサトリが目に入った。

 サトリ曰く、帰ってきたときに床で仰向けに倒れていたらしい。何をしてたっけ……。

どうしてだろう、かすみがかかったみたいに思い出せない。

 「お前の検査結果が出たってさ」

サトリから検査結果の入った封筒を受け取る。ペーパーナイフを渡してきたので、この場で開けてみろ、ということだろう。

 封を開けてみると、そこには身長や体重、筋肉量や骨密度、視力、聴力、果ては恋愛の遍歴まで、精密に記されていた。

いつの間にこんなにも精細なものを作ったのか。そこで俺はこの場にいない彼女のことを思い出す。

「そういえばサトリ、リンノさんは?」

「オレが来たときには、君しかいなかったヨ?」

彼女も忙しいんじゃないかな、とサトリは付け足した。

「んで?検査結果、どうだったよ?」

「めっちゃ細かく書かれてる……」

俺は今思ってることを素直に告げた。

 「そっか、一番下の項目には、なんて書いてある?」

「ええと……」

俺は一番下の項目を確認し、読み上げる。

「[種族:木霊こだま]……なんだこれ?」

「ユウキは木霊なんだねぇ~」

なにやら楽しそうだ。もう一度聞いてみる。

「この種族、てなんなんだよ?」

 ごめんごめん、とサトリが説明を始める。

「まず、この世界『霊獄』での常識を少し説明するね」

サトリの説明は非常に分かりやすかった。

 どうやら、霊獄には様々な種族(妖怪だったり悪魔だったり)が混在していて、それぞれの身体の構造や、処方箋の出し方などが、それぞれで違うらしい。それぞれの種族専門の医療機関でしか診てもらえないので、知っておいて損はないそうだ。さらに言うと、サトリやリンノさんはどの種族も診断することが可能な許可証『全種族医療行為許可証』とやらを取得しているらしい。

 「ちなみに、この全種族医療行為許可証を貰った医者は、霊獄では十人もいないのさ。オレがどう思われてるかは知らないけど、実は結構凄いのよ?言っとくけど詐欺師でもないからね?」

つまるところ、このヘラヘラした男は霊獄でも最高峰の名医の一人だということだ。

ん?待てよ?

 「てことは……最高峰の名医二人からなんとも贅沢な検査を受けてしまった、てことか?」

「そうなるね。」

どっと汗が吹き出る。プレミアな物にはプレミアな値打ちがつく。俺はこちらでの通貨を持ち合わせていない。どうすれば……!

「どうしたの?いきなりダラダラと汗かいちゃって~。大丈夫、ユウキはお嬢の特例だから、診療代は取らないよ」

こちらの心中を察してくれたのか、サトリが値段については請求しない、と言ってくれた。

「ん?特例って?」

「道元かその関係者でもない限り、オレの診察は受けらんないからね♪」

そういえばコイツお抱え医なんだっけ……

 「で、ユウキ。お前の処遇についてなんだが……」

「そこからは私が話そう」

いつからいたのか、サトリの横からヤヒロが口を出す。

そういえばコイツお嬢様なんだっけ。確かにお嬢様っぽいよなぁ……

「お前は私の秘書として動いてもらう。これから下町へパトロールに向かうのだが……、何をジロジロと見ている……気色の悪い」

なにやら凄い軽蔑の眼差しをおくられているが、スルー。障らぬ神に祟りなし、というやつだ。

「で?パトロールって何するんだ?」

「それについても移動しながら説明しよう」

ついて来い、と濡羽色の外套を翻し、彼女は奥の闇へと溶けて行った。 

こちらの首肯を受け取ってから、ついて来いと濡羽色の外套を翻し、彼女は奥の闇へと溶けて行った。


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