act.2 遭遇

 「とりあえずここで待っていてくれ」

豪奢な屋敷らしい豪奢な廊下を何メートルか進んで沢山ある扉の中から、ある一部屋に通された。これまた豪奢な部屋だ。


………………


どれくらい待たされたろう。


遅いな…


全然問題はないけれど小言の一つでも言ってやろう。


 ガチャッ


「おいおい、客人を待たすとは。一体どんな教育を受けてきたんだか、こっちが知りたいよ」

さすがに言い過ぎたか?飛んでくるであろう攻撃に備えて身構える。

「おや、お客さんかな?」

帰ってきたのは男の声だった。

「!?」

「あらあら驚いちゃってるよ……。見たところそこまで嬢ちゃんと歳は離れてないみたいだ……。もしかして、嬢ちゃんのボーイフレンド的なアレかな?」

 声は後ろから聞こえてきた。

恐る恐る振り向くと、美麗な面立ちをした、なんだか掴みどころのなさそうな男がそこにいた。

くたびれた白衣、身に着けている手術着は、着崩れていて髪もボサボサ、大きな欠伸を一つして頭をかきむしって…………

いかにも「今起きました」という出で立ちだ。

どうやら彼の後ろの壁が隠し扉になっていた様で、奥にはなかなか広そうな空間が広がっているようだ。


 ガチャッ


間が良いのか悪いのか、ヤヒロが戻ってきた。

「おい、なぜこんなところに扉を作ってるんだ」

「おお、嬢ちゃん。今しがた君の噂をしていたところだよ」

「あほを抜かせ。私はなぜ扉を作ったのかと聞いている」

「まぁまぁ落ち着いて、きれいなお顔が台無しよ?」

なにやらモメているらしいが、

「ほらほら、御客人を置いてけぼりにしちゃぁいけないぜ?それにこの子の言い分から察するにかなぁり待たせちゃったんじゃない?」


グッ…俺のセリフを…!


「…………チッ はぐらかしおって……」

なんて野郎だ、人の難癖をサラッと掻っ攫うとは……!

コイツ一体何者なんだ!?

「オクレテスマナカッタナー、ユルセ」

まったく気持ちのこもってない謝罪いただきましたー。ワー、ウレシイナー。

「ところでサトリ、自己紹介は済ませたのか?」

「済ませたよ~」

「なるほど済ませたのか。で、本当は?」

「まだに決まってるじゃない」

「とっとと済ませろ、ヤブ医者が」

「うわぁ~…ひどい言われよう」

「んで、アンタは誰なんだ?」

 話が一向に進みそうになかったので話を促す。

「まぁそう急くなって、俺の名前は河内かわうちさとり。一応この家のお抱え医ってヤツさ。好きなように呼んでくれ。よろしくな。仲良くやってこうぜ?」

「俺は山河祐樹、よろしく」

「ほう、お前さんユウキっつうのかい。よろしくな」

なかなか面白そうなヤツだ。握手を求めてきた。社交的な人間なんだろう、どっかの誰かさんと違って。

「今日からお前のところに置いてやってくれ、サトリ。部屋の一つや二つ用意できるだろう」

どうやら俺はコイツのところで世話になるらしい。

「なぁんだ、結局脈ナシかい、おもしろくないねぇ……」

「脈があるとでも思っていたのか?そんなものある訳ないだろう!そんなことにうつつを抜かすヒマなどないわ!愚か者!」

そこまで否定しなくても……。

 サトリと呼ばれているコイツは、まるで息を吸うかのようにヤヒロに向かって軽口を叩いている。

俺が成人だったならきっと、こいつと今晩酒を酌み交わしていただろう。

 そんな下らないことに考えを巡らせていると、なにやら二人がコソコソと話を始めている。


背中を向けていて、ここからだと表情は確認できない。 




 「オレのところに置くってことは……そういうケースかぃ?」

 サトリの顔から一瞬、笑みが消える。

「話が早くて助かる」

「りょーかい、またこのケースなのね。今回保護した理由は?」

「いずれわかる」……



なにやら話しているが、小声のせいか俺の耳にはまったく届かない、がどうやら話はまとまったようだ。

「ええと…ユウキ君、だっけ?今日からここに住まわせてもらえるんだと、やったね♪」

「くんはなくていいよ、俺も呼び捨てにするから」

「OK、じゃぁユウキ、ようこそ霊獄へ。このお屋敷は、霊獄全体を管轄している道元一族の本家だ。まぁ平たく言うと現世そっちで言うところの警察を代々家業にしている一族ってことさ。ここの勝手はオレが説明しよう。外の勝手は八尋お嬢様にでも聞くといい」

「なんだと!?そんなすげぇところの庭に寝っ転がってたのか俺は!どうりで芝がふかふかだと思ったぜ……」

ここはどうやら警察一族の令嬢さんのお屋敷らしい。凄いところで居眠りをしていたようだ……。

「はっはっはっは……。なかなか度胸あるね君。八尋ちゃんのお気に入りの庭で居眠りをするとは……気に入ったよ」

なにやら気に入られたようだが、それどころではない。

「無知の力ってすげぇや……」

俺が一人おののいている横で、くだんのお嬢様はなにやら懐中時計を確認していた。

 「それでは私は仕事に戻る。任せたぞサトリ」

「はーいよー」

サトリが軽く手を振って見送った嬢様は、扉の向こうに消えていった。

「んじゃぁユウキよ、こんなところじゃあれだし、居候という形式であれば俺とお前は同ランクだ。肩の力を抜いてくれ。硬っ苦しいのは苦手でね。じゃぁ部屋まで案内するから、そこで話そう」

サトリに促されるままに、隠し扉の奥に通されていった……。


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