弐:リリィの二度目の恋

藤田莉々 ふじたりり はゲームが好きだ。


元は親と、姉の影響を強く受けて

帰宅すればゲームを開いたし。

休日ももっぱら家にいて、画面を見ている

時間の方が圧倒的に長いことだろう。


彼女は決まってキャラクター名や

HN《 ハンドルネーム 》を『リリィ』に統一した。


理由は特にない。

言ってしまえば習慣だったのだ。


本名の莉々をちょっとだけいじって

リリィなんて名前に変えて。


そこで自分を偽って生きる。


所謂インターネット通信で

知らない人と繋がるタイプのゲームさえ

彼女は躊躇いなく始めた。




だから、彼女の次の恋は。

画面の向こうの姿も知らない誰かだった。


一度出会い、一緒に闘って。

素材を集めるのを手伝ってくれた事から

時間を合わせて共闘するようになった。


わし 』というHN《 ハンドルネーム 》だったその人と

それから一、二ヶ月は共に居ただろうか。



良い人だと思った。


そして莉々は簡単な人間だったから

それをあっという間に恋と勘違いした。



だから毎日に近しい頻度で会ったし、

現実での話も。ゲームのチャット内で

ひたすら語り合った。


ある日。

リリィの待ち望んだ日が来た。




鷲:リリィ。俺ら付き合おうよ。




リリィは胸が高なった。


勿論返事は決まっていた。


幸か不幸か、鷲はリリィの住んでいる所から

電車で1時間ちょっとしか掛からない場所に

住んでいるのだと聞いた。



だから、会うことになった。



リリィは最後まで「是」とは言わなかったが

鷲はそれでもと電車に乗ってくる日付けと

時間をリリィへ教えた。


そうなれば行かない訳にいかない。


リリィは秘かに心を決めて。

そうして最寄り駅へと。学校の。

部活の格好のまま向かったのだ。


「友達に会うから、駅まで送って欲しい」


そう車に乗った母親に嘘を吐いて。



最寄り駅に着いたリリィは

当然見たこともない相手を直ぐには

見つける事はできなくて、きょろきょろと

周りを見回していた。


鷲、…津島蓮 つしまれん の事は

一応自分より4つ上だと聞いていた。


所謂、不良で。高校を中退して

なんて事無い企業で働いているらしい。


それでも髪は茶色?金色?に染めていて

ピアスの穴もあけているのだそうだ。

本人曰く、顔には自信があるらしい。



そんなあやふやな情報だったが

案外呆気なくそれらしき姿を捉えられた。


何度かそちらを伺っていれば

四度目にして漸く目があった。


お互い目が合って、逸らさない事から

何となく確信したのだろう。


こちらへ歩み寄ってくる男に

リリィはその場を動かなかった。



会えて嬉しいというより。


リリィはこれでは普通だと。

絶望に近い気持ちを抱いていた。


結局駅の椅子の隣へ座り、手を握りあって

他愛もない話をしただけで。

その場は2時間も経たないくらいで

お開きなった。否、お開きにしたのだ。



帰宅したリリィは焦ったように

鷲の居た痕跡を消した。


ゲームのカセットを買った時のケースに戻し

ゲーム機をそっと非通知状態にして。


リリィはその後彼に会うことはないが

数週間はもし何処かで会ったらと、

落ち着かない気持ちになったものであった。



だが、それでもリリィはこれで

正解だったと確信していた。



__...「危うく“普通”になる所だった。」

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偏愛家リリィ @HomarE_Ap

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