壱:初恋リリィ

藤田莉々の初恋は中学生の頃。



先程述べたように莉々もまた

幼稚な恋に心踊らせていたのである。


何て事は無い。

自分より背の低い、活発な男の子。

お調子者でクラスのムードメーカーな彼。

その名も永田理人 ながた りひと を。


研修の夜。当たり前の如く始まった

“ ガールズトーク ”の場で引き合いに出した


「永田くんが好き…かも」


なんて濁すように告げれば

わっとその場は湧いたものだ。


まさか、そのせいで彼女の人生が。

恋が狂うなんて思ってもみないわけで。



初めは何て事は無い。


ただ、あぁ莉々は〇〇が好きなんだなって

そんな目で女の子から見られることが

恥ずかしいなんて思っていた。




莉々は目立つ子では無かった。


どちらかと言えば地味で。

皆に合わせてヘラヘラ笑うようなタイプ。


だからだろうか。

彼女の歯車は既に動き始めて

軋んだ音を立て始めていたのだろう。



莉々の身を悲劇が襲ったのは研修から

二週間ほど立った頃だろうか。


クラスのムードメーカーというのは

1人でも欠けると妙に物悲しく感じるものだ


その日、永田は風邪で欠席だった。


莉々の通う学校には『欠席連絡』という

欠席者に翌日の時間割を紙に書いて

届けるという規則があった。



だからと言って、莉々はそれを書きたいで

あるとか。そんな気持ちは微塵も無かった。


大体は同性の友人が書くものであったし。

永田が風邪を引いたからといって

恋人でも莉々がそんなに心配することでは

無いのだから。



だからこそ、翌日クラスメイトに

告げられた言葉に莉々は戦慄したのだ。



「莉々の代わりに永田にラブレター書いて

欠席連絡の中に入れといてあげたよ!」



悪びれる様子など無い。


それこそキャッキャッと嬉しそうに笑う

彼女らはスクールカーストの中の

トップに位置する存在だった。


普段は莉々に関わってこないけれど。

研修の時、たまたま同室だった彼女らだ。



当然、莉々は青ざめた。


だってもう、莉々の名前が書かれた

その手紙は昨日。彼の家のポストに

入ってしまったのだから。



その日から。莉々は有名になった。


『永田にラブレターで告白した莉々』


と。そういう目で見られ、そう問われる。


数日後、自分の机の上に置かれた

くしゃくしゃの紙には、自分のものでない

筆跡で 永田 宛に綴られた恋文は、

支離滅裂も良いところで。

『付き合ってください♡』と

締めくくられたそれに吐き気を覚えたのは

言うまでもないかもしれない。



莉々は辛かった。


だが、残念な事にその矛先を

向けられる相手など存在しなかった。


だから、莉々は“ 恋 ”を嫌った。

皆の語る、甘い恋愛話などくそくらえと。


こうして莉々は少しずつ道を

謝り始めていったのである。





__...「普通の恋なんて嫌いだ。」

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