二.革命の騎士(前)
幼い頃から、自分も父のように騎士の従者になると思っていた。
戦場に送り出すときは不安で胸が潰れそうになったが、その都度父は帰ってきた。その回数が増えるごとに、父は無敵に思えたし、自分もそのようになりたいと思っていた。
だが、今の時点ではそれに近づいているように思えない。従士見習いとして整備や出撃準備を手伝い、射撃や格闘技の訓練も受けている。それなのに、肝心な時にはいつも皆に笑われるような失敗をやらかしている。少なくとも彼の主観ではそうだった。
自分には無理なのだろうか? まだ十四歳でしかないが、クルノはそう自問した。
例えば、この拳銃への実弾装填だ。空の弾倉では何年も前から、実弾を使っての訓練も半年は前から行なっている。それなのに、今は手の震えが止まらない。
大丈夫、実戦と言っても、相手は丸裸のようなオーグトロルだ。何も恐れることはない。館にまで危険が及ぶことなんてありえない。御屋形様も、自分に場数を踏ませるために実弾装備を許可されただけなんだ。
そう自分に言い聞かせても、緊張が収まらない。一つには、やはり実戦のプレッシャー。もう一つは、斜め後ろからこわごわのぞき込んでいるルゥリアの視線を意識するせいだ。
「……大丈夫?」
「うわっ!」
弾倉を銃把に押し込んだとたんのルゥリアの声に、慌ててピストルを取り落としてしまった。
「危ない!」
クルノは慌てて振り向き、ルゥリアをかばって抱きしめた。万が一暴発した時は、ルゥリアではなく自分の体に当たることを祈る。いや、誰にもあたりませんように。いや、そもそも暴発しませんように…。
ボスッ。
間の抜けた音がして、静かになった。
一、二、三とまで数え、暴発は起きないと分かって、ようやく息をつく。そうして初めて、自分の腕の中で強張っているルゥリアの息遣いを胸に感じた。
「わ、すみません、お嬢様!」
慌てて体を離して謝る。
ルゥリアは顔を赤くして俯いたままだ。
「あの、近づくと、危ないですから。でも、大丈夫、もう大丈夫です」
息を荒げ、緊張で強張った顔のクルノに、ルゥリアは小さくうなずいた。
とりあえず大ごとにはならなかった。クルノが安堵して地面に落ちた拳銃を拾い上げた時、
「何やってんだクルノ」
良く知った声が聞こえた。顔を上げると、同い年前後の従士の子供たちが、ガレージの入り口に立っていた。それぞれ、驚きと好奇の表情を浮かべている。
「あ……」
クルノは凍り付いた。
「いかん」
その頃、父ゲオトリーは、森の入り口近くでミントレルの天蓋から身を乗り出し、双眼鏡を目に当てたままつぶやいていた。
「何ですか?」
従士たちが聞き返す。
「相手は食人鬼じゃねえ。ゴーレム、それも大型機械ゴーレムだ」
「なんですって?!」
「いったいどこの?」
「わからん!」
彼は首を横に振った。
「だが敵対勢力には違いねえ」
「隊長、通信途絶。電波妨害です」
運転席のルデリオが緊張した声を上げた。
「あいつだな。あるいは、その向こうに支援車両がいるか」
状況を察する。
「サナッド」
一番若く、足も速い従士に声をかける。
「今から指示を出す。良く聞いて覚えろ。そして…走れ」
「だから、何にもやましい事なんてないんだって!」
館では、クルノが従者の子供たちに必死に訴えていた。
「ほんとかよ~」
からかうようなサニエスに、
「ほんとだって! ですよね、お嬢様!」
振り返ると、ルゥリアの姿はなかった。
「……あれ?」
「お屋敷の方に走ってったよ。顔真っ赤だった」
トレンタが腕を組んで言った。クルノより一つ下だが、めったに笑わない少女に睨まれて、彼は叫んだ。
「お嬢様あっ!」
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