第7話
タットは〔ビィ・ツゥ〕二機の動きに注意を払いながら、味方の〔アルミュール・アン〕も挙動が気になった。
「ロディオ中尉、コディ少尉の動き。よくないな」
〔メルバリー〕が被弾して、各所で応急処置が施される中で艦長としてこの戦況が停滞している感触を覚えていた。
「艦底に対応班、応急処置に入りました。航行に支障はありません」
「怪我人はすぐに医務室に移動させろ。敵はまだ近くに跳んでいるんだぞ!」
ナビゲーターたちは近況報告を続け、〔メルバリー〕の人の巡りをよくしてくれている。彼等にとって宇宙での戦闘は初めてのことだ。
頭ではこの危機的状況を理解しているように思えるが、無重力の中で思うように動かせない体のもどかしさに四苦八苦しているのは容易に想像できる。
タットも戦闘経験が多いわけではなかったが、宇宙戦艦の航海歴は積んでいる。ことに接近する飛翔体を見つけるのは、早かった。
「各機銃座。弾は無駄にするな。一機の敵に熱くなるなよ」
タットは周囲を飛び回る〔ビィ・ツゥ〕が一機なのを認め、ハリネズミの様に四方八方に弾丸を飛ばす機銃座の粗さに思わず伝令を飛ばした。確実に〔メルバリー〕を標的にしている動きだ。
「アームド・ムーバ隊が手玉に取られているのか」
肘掛けに通信機を置きながら、タットはロディオたちの〔アルミュール・アン〕が遠ざかっているのを苦々しく見ているしかなかった。
「ネーメン。ロディオたちに艦の直掩に回るよう要請しろ」
「無理です。電波障害が強くって通じません」
「通じるまで交信を続けろ!」
色黒の通信士、ネーメンはタットの理不尽な命令に嫌な顔をしながら、交信を再開した。
ズズッと艦内で鈍い音が響き渡る。
「下方、機銃座がやられました!」
ナビゲーターの一人が叫んだ。
機銃座も敵機の接近を許さなかったが、懐に潜り込まれた時の鈍さはぬぐいきれない。
〔ビィ・ツゥ〕のビームライフルが飛んできては、装甲すれすれを飛び去っていく。
そのまばゆい光が人の目をくらませて、飛散したビーム粒子が装甲を焼く。跳ね飛ぶ火花が綿毛の様に膨らむ。
そうした目くらましには慣れているタットの目が側面から潜り込む〔ビィ・ツゥ〕を捉える。操舵主に叫んだ。
「面舵、三〇! 回避運動」
「ヨーソロー!」
操舵主は言われた通りに舵を切って、回避運動に入った。
〔メルバリー〕がわずかに側面のアポジモーターを噴射して、艦体を傾けながら右方向へ流れる。
その動きを接近をかけていたモンテの〔ビィ・ツゥ〕は戦艦の弾幕が一層厚くなったのを感じて、機体を退けた。
「チッ。感のいい相手がいる。やりずらいな……。援軍はまだ来ないのか?」
モンテはフットペダルを切り返して、太陽側へ機体を飛行させながら山羊角の〔アルミュール・アン〕に固執しているヴォルト機を見た。
そのじれったい動きにモンテ機が鞭打つようにして、ヴォルトたちの戦闘宙域にマイクロミサイルを放った。
電波攪乱がある中でマイクロミサイルは威力こそあれ、必殺の武器ではない。
〔アルミュール・アン〕がいち早く察知して、角に内蔵されたバルカンを掃射して迎撃に入る。大きな光芒が連なって爆発し、ヴォルト機との距離を開いた。
しかし、ヴォルトの〔ビィ・ツゥ〕がその目くらましの中で〔アルミュール・アン〕に突進しようとするのだから、モンテ・グロービも無理矢理に機体を加速させ、ヴォルト機を絡めとるようにして退避行動に移った。
「中尉っ。何故止めるんです!」
ヴォルトの興奮した声がモンテに聞こえた。ヘッドフォンから聞こえる息遣いは荒々しく、過呼吸寸前に感じられる。
「息が乱れているぞ」
モンテは自機のマニピュレーターをヴォルト機の腕部を掴ませて、〔メルバリー〕の方へ進む。
ヴォルトは息を整えながら、口の中の渇きに歯噛みする。それでも、彼の血走った眼が〔アルミュール・アン〕二機の動きを断片的にとはいえ捉えていたのは僥倖だった。
「まとまって飛んでいると左右から挟まれますっ。自分が囮に――」
「いや、お前は敵艦の砲座を黙らせろ。三分して援軍が来ないようなら撤退する。いいな?」
モンテ機がヴォルトの〔ビィ・ツゥ〕を〔メルバリー〕側へ投げ飛ばし、彼の機体は即座に〔アルミュール・アン〕の対応に乗り出していた。
有無をいう暇もない。
ヴォルト・ヌーベンはちらりと味方機の残光を見て、モニタの左手に映る標的に意識を変える。
「やってやる。やってやるともさっ」
彼の〔ビィ・ツゥ〕は〔メルバリー〕の弾幕をシールドで防ぎながら突進を仕掛ける。そのシールドは蛇腹状の複層素材をスライドさせて拡大し、機体をカバーする。
「銃座を黙らせれば、軍艦は沈めずに済むっ」
ヴォルトはビームライフルの照準を睨みながら、機体を〔メルバリー〕の後部に滑らせて執拗な射撃をする箇所に狙いを定めた。
〔ビィ・ツゥ〕のビームライフルから光が走る。
〔メルバリー〕の後部銃座が撃ち抜かれて、火を噴いた。直撃だ。
その衝撃波が傍に位置するブリッジにまで響き渡り、誰もが息を飲む。
「被害状況は!?」
「後部に被弾! まとわりついているのは別の一機だけですが――」
「デッキから〔ライター・ヘッド〕が出ます」
タットが索敵担当の言葉を理解するよりも、通信士の怒号に反応した。
「誰が出るんだ?」
「知りません。管制、応答なし。サブコントロールからも確認取れません」
「知らないで通るものか! 呼び戻せ」
タットの怒鳴り声が響いたとき、ブリッジを覆うノズル光が瞬き〔ライター・ヘッド〕がしゃにむに飛び出していった。
ずんぐりした機影が対空砲火におびえるように、うろちょろ飛び回り〔メルバリー〕から離れていく。
「酷い飛び方だ!」
ヴォルトはすぐに〔ライター・ヘッド〕に気づき、戦艦との距離を離れるようにしてわざとメイン・ノズルをふかした。翅をバタつかせるようにして、ノズル光が瞬き、機銃座までも引き付けたが十分に対処できた。
すると〔ビィ・ツゥ〕の音もない羽音に神経が触れたように、〔ライター・ヘッド〕の目がすぐに捉えてビームライフルを構える。
「光に引っ張られるのは、虫のすることだよ。スペースノイドッ」
ヴォルトは〔ライター・ヘッド〕の迂闊さをそう評した。
〔ビィ・ツゥ〕はライフルを発砲して、一撃で〔ライター・ヘッド〕の心臓を撃ち抜いた。動力炉への直撃で巨大な光芒が膨れ上がる。
艦内を移動していたシセルは格納庫近くまで来ていたが、見張りの当番兵がバランスを崩して通路で跳ねまわった。
「何をしてるの?」
シセルは通路が傾いたのを察知しながら、天井に手をついて体を前に押し出す。触れた天井から鋭い振動が伝わり、耳の奥にも残響が木霊する。
「戦闘中に移動してれば、こうもなる」
「わたしでもできるんだから、軍人が弱音を吐かないでよ」
体勢を立て直す当番兵たちを追い越して、シセルの体はするりと、格納庫の出入り口に滑り込んで中二階のキャットウォークの手すりに掴まった。ガウンの裾が翻るのも気にせず、周囲を見渡す。
そして、深紅の〔ヴェスティート〕に目を止めた。
「あの子、直ってるの?」
シセルはさっと手すりに足を乗せ、〔ヴェスティート〕まで一気に跳躍する。
と、宙を舞う彼女に一人の整備員が抱き付くように止めに入った。
「何をしている!? 今は戦闘中なんだぞ!」
宇宙服を着たその人物はバイザーを上げて、野太い怒鳴り声をシセルに浴びせた。濃い口髭に腫れぼったい鼻をした男で、ヘルメットがシセルの額に当たるのもお構いなしに顔を近づける。
「一般人がこんなところに――、は?」
シセルが辟易していると、男は顔を放してヘルメットの側面を押さえてキャットウォークの方へ視線を向ける。
「乗せるのか? クソッ。人手不足だからって補欠はたるんでる。お前、パイロットできるのか?」
「このまま黙って死ぬのは嫌だし、パイロット少ないんでしょ?」
「意気込みだけはあるな」
整備員はシセルの返答を聞いて複雑な表情を浮かべながらも、空いている手でエアガンのコントローラーを握り、体を〔ヴェスティート〕まで流した。
そして、整備員は〔ヴェスティート〕のハッチまで行くと、シセルをコックピットに投げ込んだ。
シセルは長い足を振り上げながら、背中をシートに打ち付ける。そして、捲れ上がった裾を押さえ、お尻をシートに押し付ける。
「乱暴なんだからっ。すぐに出しますよ、オジさん」
シートベルトを装着し、股の間にあるコンソールが立ち上げる。コンソールパネルにはタブレット端末がついており、太腿に巻かずとも機能していた。
シセルがコンソールを素早く操作し、ハッチを閉じ、スクリーンを見渡して視界の確認を急いだ。起動シーケンスを進めながら、大きめの操縦桿を握りしめる。
すぐそばには彼女を投げ込んだ整備員の宇宙服が見え、その手が機体に触れる。回線が開いて、内部スピーカーから声が漏れた。
「ジャクソン・コーデルだ。戦闘経験はあるのか?」
「少し、ばかりは――」
シセルは嫌なことを思い出しそうになり、頭を振って短く息を吐いた。
「逃げ回って、敵をかき乱せば、船は助かるんでしょ?」
「うまくいけばな。デッキに武器がある。航空ショーのマシーンでも使えるはずだ」
「はずって、なんです!?」
「軍事規格品じゃないからな、こいつは。そういうことになってる」
整備員の歯切れの悪い返答に、シセルは呆れ、〔ヴェスティート〕をスタートさせる。
〔ヴェスティート〕がエレベーターへ歩き出し、整備員が離れだす。
「気張れよ! 安いパンツのお嬢さんっ」
その無線にシセルは横に流れるジャクソンを睨みながら、ガウンの裾を伸ばしながら内股になる。
「そっちの支給品だからって、見世物じゃないんだからっ」
〔ヴェスティート〕はエレベーターに入り、空気が抜かれるとともに上昇を開始した。
その中でわずかにくぐもった音が装甲越しに聞こえてきて、シセルはびくりと肩を震わせる。
「近い……、気がする」
シセル・メルケルの直感であったが、実際〔メルバリー〕の傍では激しいレーザーの閃光が横切った。その光は人の目に白い影を落とし、暗い宇宙に尾を引いた。
それを間近で見ていたカービンは機体をデッキ内に後退させながら、震えある。
「今のビーム、並みじゃなかった」
目を瞬かせても、白い光跡がぼんやりと浮かんでいて接近しているはずなのに、一向に距離が縮まらないのが恐ろしくてたまらない。
「さっきの奴も撃墜されて、あの鎧の機体戻らないじゃ、俺がでるしか……。ないのか? 冗談じゃない!」
カービンは誰とも知らない人が乗った〔ライター・ヘッド〕の撃墜を目の当たりにして、すでに戦意喪失状態であった。だが、このまま引き下がることもできず援護射撃にも回れない。
この場から逃げ出したくてたまらないのに、身体は機体の操縦をすることすらできなかった。
加えて、獰猛な長距離砲撃を目に焼き付けられて死ぬしかない、と諦観し、震えが止まらない。
長距離砲の威力は何も熱量だけでなく、その光量も脅威である。
「目をやられたか」
艦橋にいるタット達、クルーが苦渋の表情を浮かべる。彼等は目を瞬かせて、目に焼き付いた白い靄に苛立ちを覚えていた。
「コロニーのレーザー砲か。かなり、近かったのか」
タットは艦橋の特殊ガラスをもってしても防げない光の強さに、レーザー砲の威力を改めて実感する。
レーザー砲の射程は広い。だが、戦闘宙域を漂う戦艦一隻を狙撃するのは難しい話だ。電波攪乱がなければ、難なく撃ち落せただろう。霧の掛かった森で狩りをするのと同じように遠くの獲物を捕捉することができないのだ。
「戦闘宙域離脱まであとどれくらいだ?」
「正確な時間は……、出せません。周りで飛んでいる機体が邪魔なんです」
「ロディオ達はまだ苦戦しているのか?」
索敵担当のナビゲーターの報告にタットは奥歯を噛みしめながら、ロディオ達の動きを観察しようとするが、〔メルバリー〕の周囲で飛び回る〔ビィ・ツゥ〕が厄介でそれどころではなかった。
「一機だけで船を落とそうっていうのか!?」
タットがその〔ビィ・ツゥ〕の動きに着目したときには、敵機は正面に回り込んで艦橋に銃口を向けていた。
対空砲火の隙間を読み取り、勝利を確信したように〔ビィ・ツゥ〕が顔の目を光らせる。
クルーたちから血の気が失せる。死を確信する。
しかし、〔ビィ・ツゥ〕はすぐに銃を引いてシールドを前面に構えると、甲板から伸び上ってきたビームを防いで距離を取り出した。
「た、助かった」
艦橋にそんな声が漏れた。
タットも深く息を吐き出しながら、甲板を飛び出していく眩い閃光に目を細める。デッキ内で待機していた
だが、その機体がスカートのような腰回りを捻って、〔ビィ・ツゥ〕を追撃していると認識したとき、驚きを隠せなかった。
タットも思わず肘掛けにある通信機を手にして、デッキの管制官に無線を開いた。
「誰だ? スカート付きのアームド・ムーバに乗っているのは?」
しかし、受話器から聞こえてくるのはノイズばかりで飛び出していった
代わりに、通信士が声を張って言う。
「デッキから保護観察の少女を鹵獲機の〔ヴェスティート〕で発進させたとのことです!」
「誰の命令だ――、といったところで一人しかいないかっ」
タットは受話器を乱暴に叩き付けて、髪の毛を掻き毟る。
保護観察の少女がパイロットやガッドマン代表に偉く気に入られているのは報告として聞いていたが、それほどの腕前なのか甚だ疑問である。
そう思っていた彼でも、宇宙を飛行する〔ヴェスティート〕の動きが先ほどまで〔メルバリー〕に張り付いていた〔ビィ・ツゥ〕を押さえているのを理解しては評価を改めなければならないと思った。
「この隙に全速前進。戦闘宙域を離脱する」
タットの号令によって航路を定めた〔メルバリー〕は加速をかけて、〔ヴェスティート〕の背後を横切っていった。
シセルは背後の力強いノズル光が背面のモニターから発せられているのを目の端でとらえながら、敵機を追尾する。
「船が逃げてる。だったら、このまま引っ込んでよ」
〔ヴェスティート〕はメイン・スラスターを噴射して加速をかけながら、〔ビィ・ツゥ〕へとビームライフルを放つ。
押っ取り刀で引っ掴んだ兵装は通常よりも長身のライフルで、取り回しが難しい。そもそもビーム兵器の使い方もろくに知らない少女には射撃管制もお構いなしに、乱射する。
それでも相手への威圧にはなる。
〔ビィ・ツゥ〕は背後を付きまとうスカートの
「速いッ。ついてくるのか」
パイロットであるヴォルトが冷静であったならシセルの素人臭さを感じ取れたはずだ。
しかし、上下左右にターンしても食らいついてくる〔ヴェスティート〕の追撃に肝を冷やすばかりで、感情が先行する。強い相手だと思い込んでいしまうのだ。
凝り固まった印象を持ってしまうのは未熟なパイロットの悪癖としか言いようがない。
〔ヴェスティート〕から飛来してくるビームが単なる牽制射撃で機動力を封殺していること思えば、次に来るのはスラスター全開の接近戦と予想できる。
定石の手であるが、これを当てはめてしまうのがヴォルトの限界でもあった。
〔ビィ・ツゥ〕が逆噴射をかけて、機体を捻りながら〔メルバリー〕を追尾するような軌道に入れば、〔ヴェスティート〕はスカートの裾を払う様な挙動を取って反転し追いかける。
しかし、その追いかけっこも〔ヴェスティート〕のビームライフルが弾切れを起こせば、気持ちも変化が起きする。
「なんで弾切れなのよ!?」
シセルは声を張り上げて、不安をぶちまける。
彼女の目は〔ビィ・ツゥ〕の背後とその先に見えてきた〔メルバリー〕、さらに月の方で起きている数個の光芒を視界に入れつつ、取るべき行動を直感する。
「武器なら――、あるかっ」
〔ヴェスティート〕は一気にスラスターを噴射して、〔ビィ・ツゥ〕に負けない加速力を発揮する。
「接近してくるのか! あの速さで」
その速さにヴォルトは瞠目して、とっさにバックパックのチェーンガンを発射した。とてもではないが、高速で迫る
高速で射出される弾丸。
それを上回る速さで〔ヴェスティート〕は飛び回り、機体を捻ればスラスターの残光がさらりとスカートのごとく広がる。
弾丸が光の薄絹を破った時にはヴォルトの目に赤いドレスの姿は見えなかった。
「いない――っ」
ヴォルトが取り乱したときには、〔ビィ・ツゥ〕が早くも熱源を察知して警報を鳴らした。
「右だと!」
ヘッドフォンの音声とモニタの誘導指示を頼りに、ヴォルトは顔を向ける。
そこにはゴーグルセンサを上げた〔ヴェスティート〕の鋭い顔が映っていた。
〔ビィ・ツゥ〕もメインスタスタ―を噴射して、機体を反転。左腕部のシールドを突き出し、防御姿勢を取る。バックパックのチェーンガンもすぐさま〔ヴェスティート〕を捕捉し発砲する。
「なめるなぁ!」
〔ヴェスティート〕は宙を蹴りつけるようにして、機体を飛び上がらせる。まるで踏み切り台から飛び出した新体操選手の様に〔ヴェスティート〕の機体が美しく宙返りをした。
チェーンガンが弧を描いてその軌跡を追跡するも、伸び上った〔ヴェスティート〕のマニピュレーターが銃身を引っ掴んで、無理やりに〔ビィ・ツゥ〕の頭部へ向けられた。
「これで下がってよ!」
「何だと、女の声!?」
機体同士が触れたことで互いの声が届く。
それは刹那のできほとで、次の瞬間には無慈悲に放たれ続けるチェーンガンの弾丸が〔ビィ・ツゥ〕の頭部を吹き飛ばし、暴れまわった弾は上体部を貫通する。
「クソッ。何が起きている!?」
ヴォルトはモニタの一部が消えたのと共に、爆音がコックピットまで響くことへの恐怖心でパニックになっていた。
そのパイロットの状態を機体のコンピューターが察知する。脈拍、心拍数、脳波を検知して戦闘継続が困難と判断し、自動的脱出装置が作動する。
〔ビィ・ツゥ〕は腹部のコックピットブロックを排出し、同時に救難信号を点滅させながら本体から離れていく。
「う、動かなくなった。爆発とか、しないでよ?」
シセルは捕まえたままの〔ビィ・ツゥ〕の動きに注目していると、突然機体がまばゆい閃光を放って四方八方に煙幕をまき散らす。
驚いたシセルは力任せに〔ヴェスティート〕を操った。
〔ヴェスティート〕は力任せに〔ビィ・ツゥ〕の骸を蹴り飛ばし、はがれたバックパックを引っ掴んだまま離脱する。
「チッ。しくじったか」
〔アルミュール・アン〕二機を相手にしていたモランは26番コロニー近くで瞬く閃光を目にして、潮時を悟る。
同時にヴォルト・ヌーベンがまだ使える若者であるとも考えた。
「若い奴にしてはよく持った方だ。拾ってやるよ」
彼の〔ビィ・ツゥ〕はマイクロミサイルをありったけ放出して、追いすがる敵機を牽制。高速で戦闘宙域から離脱する。
ロディオ、コディの〔アルミュール・アン〕にマイクロミサイルを迎撃させながら、〔メルバリー〕へと後退していく。
「敵は退いてくれたのか」
ロディオはミサイルの光芒に目を細めながら、飛び去っていく〔ビィ・ツゥ〕のノズル光を見つけて深く息をついた。
あっけない幕引きであったが、一機の
その屈辱はコディも感じるところである。
「ちくしょう。フル装備だったらここまで手こずらなかったのによ!」
愚痴ったところで結果が変わるものではない。
仮にモンテの操る〔ビィ・ツゥ〕を討ち取ったとしても、おそらくは〔メルバリー〕を守り切れなかっただろう。
〔メルバリー〕が戦闘状況を脱け出せたのは、飛び出してきた援軍のおかげだ。
ロディオ達の〔アルミュール・アン〕は〔メルバリー〕の後方を追いかけてくる〔ヴェスティート〕の存在を感知して、ゆっくりと帰投していった。
ロディオはその映像を拡大して、ヘルメットを取り額の汗をぬぐう。
「まさか、助けられるとは……。おまけに手土産まで持って」
「あんな女趣味の機体に乗りたがる奴は、やはりシセル・メルケルとかいう女だろうか」
コディは〔ヴェスティート〕を見て、半信半疑にそうつぶやく。
パイロットに勧誘しようとしていたとはいっても、あくまで補欠扱いのつもりだった。すぐに実戦で使えるとは考えてもいなかった。最初の出撃で一機撃墜した記録がパイロットのまぐれ、と思っていたが、もしシセルが動かしていたなら、それはもう才能と考えるの方がいいと感じてしまう。
〔メルバリー〕の艦橋でも横間を過ぎて甲板に降りていく〔ヴェスティート〕を見ながら、複雑な思いを抱いていた。
「保護観察の少女に助けられるとはな。練度の低さを思い知らされるな」
艦長たるタットは鼻頭を揉みながら、
民間人の活躍があってどうにか切り抜けられた現状が歯痒くもあり、この部隊が前線に投入されないことを祈るばかりであった。
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