第15話 準備の買い物デートもどき
――お前は俺にゃなれねえな。
俺を育てた相手、つまりトウスイという父親は、一欠けらの笑いもなくそう言った。
「お前には、圧倒的に経験が足りてねえ。いくら多くの術式を奪い、それを上手く扱っても、せいぜいが俺から刀を奪うくらいなものだ。そうであっても、下手な居合いしか使えねえ」
大きく、息を吸って吐き出すのを繰り返す。そうでもしなくては脳に酸素が届かず、鼓動の一つから全身へと広がる痛みだけが、断続的に生きているのだと意識させる――つまりは。
満身創痍。
それでも俺の左手には、ヤツが持っていた刀がある。
「俺が通って来た道を辿ればあるいは――ま、俺の教え方が致命的なまでに下手ってのも、一つあるんだろうけどな。いずれにせよ、俺になれとは言わねえし、なるのを否定もしねえよ。ただ――どうにかしなけりゃ、お前はそのまんまの未熟者だ」
そしてあっさりと、その男は背を向けた。
覚えている、その背中を。
「じゃあな、エルヴィス。次に逢う時にどうなってんのか、楽しみにしとくぜ。未熟者だったら、腹を抱えて笑ってやるよ」
それがおおよそ六年前――。
俺が最後に見た、クソ親父の姿だ。
「……」
シャツが汗で張り付くのを感じながら躰を起こせば、寮の自室。俺にとってはいつもの起床だ。
昨日、少し異族狩りの雰囲気に触れ過ぎて、こんな夢を見てしまったが、俺の夢なんてものは、こういうクソみたいなものしかない。言うなれば、悪夢以外で起きたことはないわけだ。
――わかっている。
どれほど偉そうな態度を作ったって、一人でこっそり屋内の闘技場を使って鍛錬していたのは、そういうことだ。未熟であることを自覚的でなければ、どうして鍛錬なんぞしようと思う。
吐息を一つ、足元に落としてシャツを替えた。
闘技場の破壊があったため、一日の休みを挟んだものの、寮対抗戦はうちの寮が優勝で幕を閉じた。俺は宣言通りに辞退というか、参加はしなかったが、プリフェとリリズィの二人だけで充分だったらしい。
今日は対抗戦明けの休日である。時計を見れば、三時間くらいは眠っていたようで、九時を過ぎた時間だった。
俺は強くもないし、完成もしてはいない――ただ、そんな俺でも教えられることがあるだけだ。
顔を洗って歯を磨き、欠伸を噛み殺しながら下に降りれば、キッチンにレゾナルがいた。いつも通りだ。
「あらおはよ、エルス」
「ん。珈琲を落とす――が」
リビングには誰もいないのを見て。
「デカ女を殺したのはお前だな?」
「あらら、ククルクも気にしてるんだから、デカイの何のと言わないように」
背丈に応じた胸と尻もあるけどな、あいつ。
「どうして?」
「ククルク本人が、殺された際の情報を知らなかったこと。運よくイーギーに拾われたこと。この範囲の管理がお前の役目であること――で、お前がククルクを認めたことが最後だな」
まだ情報がいるのかと、珈琲の準備をしながら視線だけ投げれば、異族狩りらしい薄い笑みを口元に浮かべていた。つまり、厭らしい笑みだ。
「誰もがあなたみたいに、敵対したら殺すなどと、平然とそれができる実力があるわけではないのよ?」
「だから、俺を通してククルクの行動範囲を広げてやった。――文句があるのか?」
「いいえ、べつに」
すぐに、いつもの呑気な顔に戻る。笑みも、仕方がなさそうな、間抜けな笑みだ。
「ふん。だいたい、俺が本当にお前を殺せると、そう思っているのか?」
「もちろん」
「だったら、俺の戦略勝ちだ。やる前に負けてるようじゃ話にならねえ。――それで?」
「あれ以外に方法がなかったの」
それは、わかっている。
そもそも異族狩りは、疑問を抱かない。一般の生活に紛れて暮らしていたところで、それを大切に思ったりしないし、決して憧れたりはしないものだ。もちろん、仕事が済んだ際に、問題ないような最低限の配慮ができるくらいには、紛れるのだけれど。
一度でも、道を外れれば。
少しでも憧れて、仕事をしたくない――なんて思えば、殺処分だ。そのためにレゾナルがいるし、ほかの異族狩りが存在している。
レゾナルだとて、異族狩りと呼ばれるシステムの一部だ。本人がどうであれ、逆らえない。
だからククルクを、殺した。
「運が良かった、それはわかってる。だが何故だ」
たぶん死んでいたのだ。殺すとはそういうことだ。けれど、ぎりぎりのレベルで、腕の良い医者が、時間制限目一杯で、なんとか、生かすことができた――それが現実だろう。
「お前も異族狩りだろう?」
「――なんでかしらねえ」
そう、寮母として働いているレゾナルだとて、異族狩りだ。何を誤魔化すこともなく、振られた仕事はやる。何しろクロウの存在を持ってきたのも彼女だし、仕事を振ったのもこいつだろう。中間管理職に近いとはいえ、単独の戦力として弱いわけでもない。
ただ。
俺に対するカードとしては、不安が残るし、管理者の立場を失うのをシステムが嫌っているから、俺を殺そうとしないだけだ。
立場としての理由である。
個人的な感情などでは、ない。
そういうふうに、こいつらは、できている。
「異族狩りは同じ対象を殺さない――」
「それがお前の言い訳か?」
だって、対象を殺せなかったらこっちが死んでいるのが異族狩り。一人で同じ対象をもう一度とはいかないから、次のやつを投入して、また三年やら五年やら待つ。
本当にクソッタレなシステムだ。
「まあいい、どうせ死んだ相手は殺せない。そっちがそのつもりなら、とやかくは言わない」
「うん、そうして。エルスが仲立ちした以上、こっちも手出しはできないから」
「念押しするつもりはねえよ、好きにしろ」
「しないわよう」
「さようで」
珈琲が落ちてから、一杯目をレゾにやる。
まあ実際には、同じ生活を続けたい欲求を持つヤツに、こういう管理職を与えるので、レゾ自身もこの場を大きく荒らすことには否定的だろう。
だからといって、ある意味でククルクを見逃したのは、疑念が残る。まあ、その疑念を本人が解決できていないなら、問い詰めることもできないが。
「俺の心配することじゃねえんだけどな――」
「そう思ってるのはエルスだけよ」
そこがよくわからん。何故だ。
来客のインターホンが鳴って、ぱたぱたとスリッパを慣らしながらレゾナルが出迎える。
「あら、メニミィ、いらっしゃい」
「こんにちは、レゾナルさん。エルスはいらっしゃいます?」
「いないと言え」
「では失礼しますわー」
「はいどうぞ」
俺の話を聞け。いや、聞いたから来たのか。
「――なんですの? 嫌そうな顔をしてますわね?」
「自前だ、いつも通りのな。珈琲は?」
「いただきますわ」
ん……ああ、そうか。
適当なカップに珈琲を入れて、リビングへ。レゾは珈琲を片手に、一階にある自室へ入ったので、俺は対面に腰を下ろした。
「メニ」
「なんですの?」
「そろそろ、自分のカップを買って、置いておけ。いつまでも客用じゃ手が迷う。退屈な用件なら、とっとと済ませて買い物だ」
「あら、付き合っていただけますの?」
「ほかの連中と似たようなカップにならないようにな」
ついでに
「で、そいつは学生会長としての用件か? 闘技場を壊した補償なら、折半で頼む」
「いえ、さすがにそれは学園側が出しますわ……ええ、出させますわ」
良いことだ。
「島を一つ購入した件ですわ」
「ああ、ついに参加者を集めだしたか?」
「そうですわね。結論から伝えると、つまるところあなたが行くかどうかですわよ」
「その場合のメンツは?」
「わたくしと、ククルクと、ヴェネッサですわ」
「言い訳は」
「少人数の斥候で、期限は長くて一週間。調査レポートの提出を義務付け。あなたとククルク出席日数の埋め合わせ、ヴェネッサは寮対抗戦で一度も舞台に上がりませんでしたし、補習の意味合いもあって。わたくしはその監視とまとめ役――という言い訳ですわね」
「学園長の?」
「もちろん」
「なるほどな」
よくわかってるな。余計な人間を参加させると、俺が嫌がって逃げるのを理解した上で、最低人数――しかも、身近な人間を集める。言い訳は差しさわりなく、
「俺が行くかどうかってのは?」
「あなたが行くなら構わない、わたくしも含めて全員がその意見ですわ」
「ああそう。返事の期日は?」
「早ければ早いほど」
「……じゃ、行くか」
「あら、本当に早いですわね?」
「さすがに、刀の腕を戻すのに、ここらじゃ人目につきすぎる。ただし、学園長に伝えておけ。監視をつけるなら、相応の対価を支払うことになる、と」
「ええ、わかりましたわ」
「意外だったんだが、リリやキョウは参加しようと言い出さなかったんだな?」
「プリフェさんも、ですわよ。キョウはキクリナさんをようやく捕まえたそうですわ」
「本当にようやくだが、だったら遊んでる時間はねえか」
「リズやプリフェさんは、寮対抗戦の結果に、思うところがあるとのことですわ」
「なんだ、優勝したのが気に入らねえってか、ははは」
「笑いごとではありませんわよ……」
「わかりきっていたことだ。どうせ、冒険者や現場の人間から、それなりに誘いの声が上がってんだろ?」
「即戦力だ、とはよく聞きますわね。嬉しいことに、わたくしは理事会との繋がりもあって、遠慮されているようですけれど」
ああ、そういえばそうだったな。すっかり忘れてた。
「一礼から始まる騎士の手合わせが上手いやつが、踏み込みから相手の足を踏んで動きを制限するゴロツキとやり合ったのと同じだ。現場に卑怯はねえ、生き残れば勝ちで目標を達成したら終わりだろ」
「目的意識の違い、ですわね」
「今のリリとプリフェなら、現場でもそこそこ動ける。連携は難しいが覚えりゃいいし、単独でも魔物の日くらい、どうにかなるだろ。それを本人が自覚しちまえば、まあ、学園での授業ってやつに、思うことも出てくるさ。仮にもプリフェは称号持ち――世間ってシステムから、もう評価を貰ってる。元の鞘に戻ったって、おかしくはねえさ」
「――止めませんの?」
「俺が? なんで? そいつは俺の選択じゃねえ――お前が相手なら、多少は口出しするけどな」
「え、あ、なんでですの?」
「今のお前は俺よりも不安定で危ういし、物覚えが良いから気に入ってるし、今日はこれからカップを買うって言い訳でデートをするくらいには仲も良いわけだ」
「あなたは……」
何故そこで半目になる? それほど冗談でもないんだが。
「事前情報は?」
「え、ああはい、小島で敷地面積は学園ほどだと。魔物も多少いますが、大型はなし。森になっていて、岩場もあるそうです。それから川も。わたくしはよくわかりませんが、サバイバルには適した場所だと聞いてますわ」
「だろうな」
「経費で落とすので、必要なものは買っておきましょう。何が必要かしら」
「カップのついでに、そっちも買えばいい。ほかの二人には、予備のナイフもちゃんと研いでおけと伝えてくれ」
「わかりましたわー」
「ついでに、
「案山子を、一山ですの?」
「ああ」
あれなら、俺の意図を汲むだろう。
「文句を言ってきたら、その程度も揃えられないなら、学園長の椅子も随分と座り心地が良いんだなと、言ってやれ」
「言いませんわよ……」
携帯端末を取り出して、操作を始めた。
「あら、寝具の関係は一通り揃えてあるそうよ。島への入り口は学園内ですわ」
「じゃあ荷物は、そっちに送ってもいいか。商業区の店舗をいくつか回れば、だいたい揃うな」
「ちなみに、どういったものを?」
「サバイバル用品だ。ヴェネとお前は慣れてないだろうからな」
「食料は現地調達ですの?」
「最悪の状況を考えて保存食は確保しておくし、撤退準備もしておくが、魔物がいるなら食事には困らない――抵抗はあるか?」
「竜は肉食ですわよ。サバイバルで贅沢を言うほどの箱入りではありませんわ」
「我儘を言ってもいいぜ? 聞くやつはいねえが」
「あら、聞いていただけませんの?」
「下着の上下をプレゼントしてやるだけ、マシだと思え」
「そんな話もありましたわね……」
珈琲を飲み終えたタイミングで、俺は自室にて財布と刀を手に取る。いつものよう、スラックスにシャツという正装に似た服に着替えて。
メニと一緒に外へ出た。
「噴水まで行くぞ」
「構いませんわ」
こんな時間でも、あちこちから声をかけられる。
「信頼ですわねえ」
「どういうわけか、顔見知りばかりだからな」
だからこそ、デートだと一言放てば、仕事をこちらに投げることもない。そういうところはきちんと、弁えているのだ。
「そういえば、キョウと違ってお前は純血の竜族だったな?」
「ええ。きちんと竜変身もできますわよ」
「答えなくなかったらそう言え。そもそも竜族とは、どちらが本質だ?」
「そこは、わたくしに興味があると言って欲しいものですわね」
「好意的に解釈するのは俺じゃない」
「あらそう。――今は、産まれるのは人型ですわ。けれど、本質を問われれば、竜の姿でしょう。わたくしも普段は尻尾を隠していますけれど、疲労したり、自室などでは出してますもの」
「俺が全裸で寝るのと同じ解放感か」
「……」
「冗談だ。また、かまぼこみたいな目になってる」
「火流都市では、よく飛んでますわよ。鱗は硬く、魔力は大きく、そもそも火のブレスなどに抵抗するのが難しい――圧倒的な優位性、であるからこその傲慢。うちの一族は、男性優位の家系で、わたくしが産まれた時に母が亡くなり、それからは実家に立ち入ることすら、年に一度も許されませんでしたわ」
「そこで、ハーフのキョウと知り合ったわけか」
「ええ。竜族とのハーフもまた、人間交じりと疎外されることが多いですもの。カルーゾ家の名を使って理事会と縁を作り、学園長なんて立場に収まって、多少は見返してやろうかとも思っていましたけれど」
「今は、どうなんだ?」
「馬鹿らしいですわ。尻尾を切って焼いて食べてやろうかと」
「お前な……」
「おかしいですの?」
「それは俺の思考だろ。理事会から手を伸ばして家を潰すのが、立場ある人間のやることだ」
「面倒くさいですわー」
こいつ、大丈夫か? 俺の影響も含めてだが、ちょっと変な方向を見てる気がしてならないんだが。
「まあ、竜族ほど楽な相手もいないんだけどな」
「そうですの?」
「優位性なんてものを持ってる相手ほど、崩しやすいのが現実だ。セオリーなんて、ない方が良いし、同じことしかできない相手には対策も一つでいい。馬鹿の一つ覚えなんてものもあるが、な」
「一つのものを突き詰めてはいけませんの?」
「そうじゃねえよ。一つのものを突き詰めれば、同じことは一つもない。突き詰めるほどに、数は増える。たとえば居合いを突き詰めた者は――そも、居合いなんぞ使わずとも相手を圧倒できる」
「……実感が伴いませんわ」
「俺だってそうだ」
だいたい、突き詰めるだなんて、普通に鍛錬していたは八十間際だろう。
「では、奥の手と呼ばれるものはどうなんですの?」
「悪いイメージしか浮かばないな。だが、手数が多い場合に必要とする人間もいる。わかりやすく教えてやろう」
噴水公園に到着してから、進路を左側に取った。生産区は商店、奥まで行けば工房などが多くある区域だ。食料品などは入り口に多い。
「手元にはカードがある。基本的には、何が描かれているのかわからない――だから、相手の手札を想像しながら、何が出されて、その場合は何を出すのか、考える」
「心理戦ですのね?」
「現実では、それだけじゃねえけどな」
立ち振る舞いや、装備などで、想像は補強されるし、見抜くこともできる。
「大きく、二つのパターンが存在する。お前が言ったように、奥の手を持つ人間のやり方は、手札を隠す。一枚ずつ出しながら相手を窺い、対応して、ここぞという一枚で勝利を得る。だが、それは最後の一枚じゃない――あくまでも、奥の手の一つだ」
「何故ですの? 奥の手とは、使わずに済ます最後の一枚ではなくて?」
「それを出して通じなかったら? ――それを、負けの一手と呼ぶんじゃねえのか?」
「最後まで札を使わないのが、それは最善なんでしょうけれど」
「けどな、最初から札を全部オープンにするヤツだっている」
「……え?」
「自分が使える手札というのは、錬度の差こそあれど、誰かよりは上手く使えるだろう自負がある。だから、最初から何ができるのかを見せるわけだ。となると?」
「もちろん、わかっているなら対策しますわ」
「そこで問題だ。メニ、対策することがわかっているなら、どうにでもなるだろう?」
何かを言おうとしたメニミィは、開いた口を閉じて、視線を足元に落とした。
「返し技を含めてようやく、習得と云う。仮にだ、自分と同じ技を相手が使ったところで、その対応を俺はできる。というか、難易度が低い部類だな……何故って、その技の特性ってやつを、俺は嫌ってほど知ってるからだ」
「順序立ててもよろしくて?」
「やってみろ」
「まず、仮にすべての札が見えていたら、わたくしは疑念を抱きますわ。――本当に? それこそ、奥の手が隠れているのでは?」
「疑心暗鬼を生み出せたのなら、既に優位性は相手のものだ。何をしたって裏を掻かれるような予感しかしねえ」
「けれど、見える手札への対策を練りますわね。まずはそこから、奥の手があるとしても、まずは見える札へ」
「応じるか、避けるか、封じるか――経験差もあるだろうが、相手にとっちゃお前以外の誰かが、自分の前で試してみた対策だろうぜ」
「……相手にとっては、二度目ですのね?」
「あるいは三度、四度目かもしれない。そして、大半は想像がつく――何故って、本人がそれを一番考えてるからだ」
「だったら、どうしますの?」
「それはまた別の話だ。実際はそんな平面でもないしな。でだ、その奥の手ってやつを、一番最初に出すヤツも世の中にはいる」
「――奥の手ですわよね?」
「その通り。狼族の部隊だったかに、似たようなのがいてな。
「けれど、負けたら終わりではありませんの?」
「お前、ぎりぎりのところで、なんとかその奥の手ってやつを回避できたところで、それが本当に奥の手だと、そう思うか? 相手にとってはそれが普通の一手だと勘違いして、逃げを考えたりしないか?」
おかしな思考ではない。そう思うのが自然だし、そう思わなくても対処する方法を持っていてこその、奥の手だ。
要は、使い方次第。
ハッタリだって、充分に戦力の一つだ。
「話は戻るが、そう考えりゃ竜なんてのは、空を飛んで鱗があって、火を吐くだけだ。火を防いで翼を切って地面に落として、あとは鱗が斬れればそれでいい。簡単だろ」
「……そう言われると、本当に簡単ですわねえ」
「いずれわかるさ。それはともかく、水着は買っておくと楽だぜ」
「え、あ、ああ、買い物の話ですわね。何故ですの?」
「風呂なんてないから、基本は水浴びだ。下着の代わりに水着があれば、人目を気にせず水場に入れるし、洗って干す必要もねえだろ」
「……あなた、躰を洗うわたくしを、じっくり見るつもりでもありますの?」
「許可がありゃ、胸元にチップを――すまん」
「謝らないでくださいます!?」
「現実を見ろ。――メニ、真面目に戦闘を学ぶか?」
「唐突ですわね。少なくとも、戦闘ができる現実は見ましたわ。最低限、実家にいる連中の尻尾を輪切りにするまでは、やるつもりですけれど」
「先に言っておくが、俺は適性を見抜くほど熟練しちゃいない。ただ、リリやプリフェ、そしてキョウとは違う道を示すことはできる」
「回りくどいですわね?」
「……新しい得物を、お前にやる」
「ええ、楽しみにしてますわ」
お前ね、少しは悩むなり疑うなりしろ。
「距離が近くなり過ぎたか……?」
「なんですの? 不満でもありますの?」
「いや、まあそんなもんか」
「喜びなさい」
「うるせえ、強要すんな」
まあ、距離が遠い相手なんて、そもそも会話すらしないのだから、近いくらいが当たり前なのかもしれないが。
悪い気はしない。
なので、下着は2セット買ってやろう。
――ちょっと無理めな大きいサイズを選んだら殴られた。こいつ、遠慮もなくなってきてないか。
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