第3話 適正はあるけど


友達と待ち合わせたイタリアンのファミレス。テーブルには、社会人のトモと大学生のカズヤが座っていた。

「久しぶりだなシンヤ。相変わらず病人面だな」

「トモは何にも変わらないね。すっかりサラリーマンって感じ」

「俺は老け顔だからな」

「おい〜。シンヤ!半年振りだな!」

「カズヤは大学生って雰囲気だしてるよ」

「シンヤ〜、可愛い看護婦との出会いはなかったのかよ?報告は?」

「報告って‥‥。友達にはなれなかったけど、一人可愛い子が優しくしてくれてさ」

その言葉を聞いた二人がニヤニヤする。

シンヤはまたこの展開かよ‥‥って面倒くさくなった。女の子の話しとなるとすぐに出会いに繋げる二人。引きつった顔もため息をもあえてしてやる。

「なぁ!合コンしたいなぁ!」

盆踊りのように踊りながら、二人はお祭りムードになった。

「合コン!合コン!」

キィーン。

二人の声に重なるように耳鳴りが始まる。

なんだ?痛い‥‥。二人の声が‥‥。急に遠くなってくる。



シンヤは突然の眠気に襲われた。

まるで眠り薬を飲んだような‥‥。

瞼が重く、視界は暗くなっていった。


‥‥。


合コン!合コン!

今度はTVのボリュームが上がるように、しだいに声が大きく聞こえてくる。


「あ〜あ、本当にうざい」

ボソリとシンヤの口から勝手に声が出た。

「シンヤ頑張ってくれよ〜」

「ねぇ‥‥うるさいんだよ!」

「は?なんだ?シンヤ?」

「さっきからさぁ!友達じゃないんだって!」

「何、お前怒ってんだよ!」

「合コンってやらしい!」

それを聞いて、カズヤとトモが口をあんぐりさせた。

シンヤはイライラしながら目の前に置かれたトマトサラダを頬張る。

スライスされたトマトをペロリ。他の皿にあるトマトも口に入れた。

「え?嘘でしょ?」

「お前‥‥トマト大嫌いだった‥‥よな?」

二人は目を丸くしてシンヤを見つめる。

「え?すごく美味いよ。‥‥トマト嫌いだった?」

ゴクリと喉がなる。

「ははっ。だよね‥‥」

シンヤは不思議感覚に陥りながら。

「もっと注文していい?」と言った。二人はそのシンヤを見て爆笑しながら店員を呼んだ。


✳︎✳︎✳︎


「じゃあ!またな!」

「うん‥‥ありがと」

トモとカズヤが改札をくぐり、シンヤは手を振って見送った。

「さてと僕は終電はもうないや‥‥」

街の雑音が響く。

ネオンの光が瞳をチカチカさせる。

夜の繁華街に居場所がないシンヤはビルのエレベーターで3階に上がった。漫画喫茶と書かれた店に入った。

そこは薄暗い個室が並んでいる空間。

シンヤにとってここは見慣れた風景であり落ち着く場所だった。

「はぁ‥‥何だか色々あったなぁ‥‥」

もしかして、あの眠気。アオイさんから貰った薬のせいなんじゃないか?思い出したシンヤはポケットに余った赤いカプセルを取り出した。

「痛てて‥‥」

頭痛がして、手で眉間を抑えた。次第に大きくなり何かやばいと気がついた時には心臓に燃えるような痛みを感じた。

「はぁ、はぁ、はぁ。なんだ?胸が苦しい‥‥」

大量の汗が体を伝う。一気に呼吸困難になり

シンヤは白目になった。


そのまま視界が白く、光に包まれていった。



その光が消えていくと、シンヤは夜の病院の廊下に立っていた。


「此処は‥‥」

夢を見ている。おぼろげにシンヤはそう思った。暗い廊下。足を進める。そして、すでに何かを探している自分。

この先に誰かいる‥‥。それが分かる。

暗い病室のドアの前で立ち止まった。

シンヤは扉を開け、そこにはベッドに座る‥‥。一人の黒髪の少女を見つけた。


シンヤは近ずく。


すると少女は無表情のまま、手に持つナイフで手首を切リつけ始めた。

まるで人形のように生気はなく。

赤い血が傷口から溢れ、垂れていく。

血は腕を伝う。

血は体を伝う。

滴り落ちた血はシーツをみるみる赤く染まっていった。

「一体、何してるの?」

こちらに気がついていないようだ。

少女はさらにナイフで反対側の手首を切り始めた。

シンヤは慌てて、少女に向かって叫んだ。

「君!やめなよ!」

夢中で手を伸ばし、少女に向かって走った。

「やめろって!『サキ』!」

知らないはずの少女名前を呼んでいた。

でも知っているから叫んでいた。

サキ。と。

勝手に口から声が出ていた。


手が届いた瞬間だった。

少女の姿形がスって消えてしまった。

「何処だ!何処にいるんだ!?『サキ』!行かないでくれ!」


辺りがまた白く光った。

そして、シンヤの体はまた光に包まれていった。


✳︎✳︎✳︎


「はっ!」


目を覚まし、気がつくと、薄暗い漫画喫茶にいた。


「な、何だよ。今の‥‥夢?」

シンヤは怖くなり、うずくまった。

震える全身を手で抱え込みながらもう片方の手で抑えた。


そして何故か、また涙が頬を伝っていた。


心が。


体が。


全てが悲しみに襲われているのにシンヤは気がついた。





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