第6話 シュプレヒコール

夢で会った少女、サキは素直でまっすぐで、どこか可愛げのある女の子だった。




PM23:00 廃工場

「うぅぅ‥‥堤‥‥病院‥‥」

頭痛。そして喉が異常に渇きながら僕は目を覚ました。

「あ!シンヤが起きた!」

マサキがパソコンに映るシンヤを見ながら叫んだ。僕は体に力が入らず、椅子からさえ立ち上がれない状態だった。

「本当に‥‥会えた‥‥サキと僕は話したんだ‥‥」

コップに入った水をアオイに渡された。それを受け取る手が震えていた。一気に飲み干しながら、この不思議な体験から気持ちを落ちつせようとしていた。まるでもう一人の自分のような存在。手が今でも握れそうだったサキ。君と、もっと話しがしたかった。

「大丈夫?シンヤ!何か聞き出せた?」

アオイが嬉しそうに両手を握ってきた。

「サキ‥‥に会えた‥‥」

「うん!それで!?」

「‥‥その‥‥ダメなんだ‥‥」

「ダメって?何がダメなの?教えて?サキは私に何か言ってなかったの?」

「まだ上手く‥‥サキとのリンクが出来てないんだ‥‥僕の存在に気がつくのが精一杯だった。もっと‥‥gimmick《ギミック》に体が対応しないと‥‥」

「くそ!そんなに簡単にgimmick《ギミック》はない!」

いきなり京の声が工場内に響き渡った。飲み干した缶コーヒーを地面に投げ捨て、指の爪を噛み始めた。明らかに苛々しているようだった。

「そう‥‥」

アオイは僕の体から手を離し、考え混んでしまった。僕は‥‥気まずさに押され思わず、口を閉ざしてしまった。

ごめん‥‥役立たずで‥‥。心からそう嘆いていた。


✳︎✳︎✳︎


翌日、僕の父が経営する堤病院の前にいた。

マサキがビデオの録画を見て、僕が堤病院と言っているのを見つけたらしい。gimmick《ギミック》で情報を得た場所。一体此処に何があるというのか?

不安をあおるような曇り空。

地上に雨を降らし始め、湿気が皮膚にまとう。そして、皆の気分を憂鬱にさせた。

車の助手席で僕は病院の入り口を見つめていた。誰も知り合いが居ませんように。顔を見られませんように。

運転席では京がカーナビのチャンネルをいじっていり。

「α、そっちはどうだ?」

「β、こっちは順調に回線を拾えたよ。そっちに今送る。」

京は小型のトランシーバーで話しをしているようだ。それに対し、後部座席で応答がある。

「こちらΔ《デルタ》。それでは移動を開始する」

α=マサキ、β=京、Δ=アオイらしい。

「さて、行こう!シンヤ!」

僕だけ本名なのが気がかりだが‥‥Δ=アオイが僕の手を掴み、車から降りた。

暖かい手、小さい手が力一杯僕を引っ張っていく。

「こちらΔ。病院に入った。突き当たりのエレベーターを目指す」

「こちらα。目標は地下二階にいる。調べたところ、一週間もその部屋に滞在しているみたいだ。このまま車内で調べに入る」

「βだ。その部屋は重病人の隔離施設でもある。気をつけてくれ」

トランシーバーの会話が進む中、僕とアオイは手をつないだまま病院の入り口に入った。僕は息をころし、とにかく看護婦を見ないように歩こうとした。その時。受け付けの人、僕の入院中に担当だった河合さんがいた!相変わらず可愛いなぁ。一瞬目が合いそうになったがアオイが僕の頬をつねり、引っ張った。

「痛ててっ!」

僕らはエレベーターに到着し、乗り込んだ。

「ちょっと!何やってんのよ!」

「知り合いが‥‥」

「尚更見つからないでよ!また女の子をやらしい目で見てたんでしょ!」

「誤解だよ。えっと‥‥目標って何?」

「シンヤのお父さんよ」

「え?父さん?」

「何?浮かない表情してるけど」

「あまり父が好きじゃないんだよ。18歳で一人暮らしをして以来会ってなかったから」

「マサキの調べによるとあなたの心臓手術はあなたの父、堤カズヤがしてるのよ!?」

「え?知らなかった‥‥」

「どんだけ、呆けってしてるのよ」

「手術が緊急だったんだよ‥‥」

僕と父は複雑な関係だった。母は出産後すぐに亡くなってしまい。父の代わりに、というか親変わりに家政婦がいた。正直、あまり話しもして来なかったし、不登校になった僕に興味もなかった人だ。


緊張がはしる。


エレベーターが地下二階に着いた。

降りると、僕らは一本のまっすぐな廊下を歩いた。体温センサーライトが青く光り、僕らの道を光り示している。


まだ心の準備が出来ていない。

光がそう言っているようだった。





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