終章 人と生きる感覚知ってる?
相川 椪は俺と同時期に恭子に出会い、そうしてやはり俺と同じように、恭子に惚れた。
「俺だけだよ、俺だけが君を幸せにできるんだ。必ず君を幸せにするよ、恭子」
相川は留置所でずっと、そうつぶやいているらしい。
警察の取調べでわかったのはこれくらい。
俺が入院してからどんどん時間が過ぎて、あんなことがあったのに、記憶もだんだん薄れていった。
見舞いに来る連中も減ってきた頃だ、看護師から一つ話を聞いた。
「そういえば一つ伝言を預かってるの」
「伝言?」
「ええ、君が倒れてるのを見つけて通報した人よ。救急隊員に君に伝えってくれって……伝言を残したらしいわ」
初耳だ。俺を見つけて、救急車を呼んでくれた人は、名前も残さず立ち去ったらしい。
その人が俺に……
「恭子を頼むって。それだけ、なんのことなのかしらね」
「え?」
「君の知り合いなのかな? でも一度もお見舞い来てないわよね」
「その人の特徴、わかりますか?」
「詳しいことはわからないけど、金髪の人だったって……」
「……そうですか、ありがとうございます」
なんだか胸をこみ上げる想いがあった。
ああ、そうか俺はたくさんの人に生かされたんだな。
たくさんの奇跡とたくさんの人のおかげで、俺はいまここにいる。
それはとてもありがたいことで、とても誇らしいことだ。
だから俺はこの生かされた命で、毎日、精一杯生きよう。
それが俺にできることだ。
「あ! 悠人、ちゃんと大人しくしてるー?」
そんなことを考えてると恭子が騒がしい声で、やってきた。
「ちょっと、行きたいところあるんだけど、いい?」
「いいけど……どこ?」
恭子が不思議そうな顔でそう尋ねた。
「屋上」
*
恭子に車椅子を押してもらって屋上に出る。外は少し肌寒く、冷たい空気が流れていた。
「寒いねー、もう直ぐクリスマスだ」
「まだ先でしょ」
「そうかなー、楽しみだね」
恭子はいつも楽しそうな顔をしている。
俺はやっぱりその顔が大好きで、つまり恭子のことが大好きということで、そんな恭子との時間を大切にしたかった。
「なあ」
「なに?」
「幸せになろう」
口からついそう漏れていた。
「なに言ってるの? 当たり前じゃん。私は悠人と一緒にいれて、いまも、これからも、ずっと幸せだよ」
「ああ、ありがとう」
これから先の人生を、ずっと彼女と生きていきたい。
この笑顔をいつまでも守りたい、改めてそう思う。
この笑顔をいつまでも、俺が隣で……
一緒に幸せになろう。
そうなにかに誓った。
恭子の左手では、薬指にはめられた指輪が淡く光っていた。
人を殺す感覚知ってる? 湯浅八等星 @yuasa_1224
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