第10話 選手交代
「おお、どうしたんだよ? こんなところで」
金髪の男の家を出てから数分、暗い裏道を歩いていると、相川に声をかけられた。
「……さ……い、か……えせ」
「え?」
様子が少しおかしかった。
相川は口をもぞもぞ動かしている。
格好も少し変だ、パーカーのフードを深くかぶって、ポケットに——
え?
——プスッ、と音がした。
なんだ、何が起こった。
おかしい、なんだこれ?
途端、腹に激痛が走った。
「おいおい、なんだよ……これ」
思わず腹に回してしまって手を見ると、俺の手は真っ赤に染まっていた。
「……うそ……だろ」
だめた、力が入らない。
人形みたいに、地面に伏せてしまった。
薄れゆく意識の中、最後に相川の声が耳に響いた。
「許さない、彼女を返せ」
*
「何言ってんだよ。あんな奴が彼氏だって? ふざけるな! お前に、……君に相応しいのは俺だけだ!」
そうだあんな奴は、神崎 恭子に相応しくない。完璧で、美しい、彼女に相応しいの俺だけだ。
「それなのにお前は、あんな奴と付き合って! 腸が煮えくりかえりそうだったよ、あんな、あんな奴と!」
仕方がないから俺も喋り方を変えてみたんだ。あいつみたいに。吐き気がしそうだった。
それでも、僕は俺になったのに、それなのに……神崎 恭子は俺に見向きもしなかった。
それどころか……
「見てたんだぞ! 俺は、あの日、映画の打ち上げの日。抜け出したお前らが気になってついてったんだ、そしたら、お前らは…… 俺はずっと見てたんだ、海の時も、いつも、いつも」
あの席にいるはずべきなのは、俺なのに。
それなのに橘なんかが神崎 恭子の横にふんぞり返って座ってる。
そんなの、許せるわけないだろ?
「だから、罰を下したんだ。はは、あいつに相応しい末路さ。邪魔者は消えた。さあ恭子、こっちに来るんだ……結婚しよう。君に相応しいのは俺だけだ」
「やめて! こないで! やだ、やめて!」
俺が一歩踏み出すごとに、彼女は逃げ回った。
まったく手間のかかる……
「確保!」
は?
大きな音がすると、突然叫び声が耳をつんざいた。
後ろからどたどたと、何人もの男が入ってくる。
「なんだ、お前ら! 邪魔すんな!」
「警察だ。相川
「は? ふざけるな! あと少しだろ! やめろ!俺と恭子の邪魔を……邪魔をするな!」
手錠をはめられた腕に、力を込めて恭子へ手を伸ばす。
ほら、俺の手を掴むんだ。
誓うよ、君は必ず俺が守る。
必ず幸せにするよ。
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