第10話 選手交代

「おお、どうしたんだよ? こんなところで」


金髪の男の家を出てから数分、暗い裏道を歩いていると、相川に声をかけられた。


「……さ……い、か……えせ」


「え?」

様子が少しおかしかった。

相川は口をもぞもぞ動かしている。

格好も少し変だ、パーカーのフードを深くかぶって、ポケットに——


え?


——プスッ、と音がした。


なんだ、何が起こった。

おかしい、なんだこれ?


途端、腹に激痛が走った。


「おいおい、なんだよ……これ」

思わず腹に回してしまって手を見ると、俺の手は真っ赤に染まっていた。


「……うそ……だろ」


だめた、力が入らない。

人形みたいに、地面に伏せてしまった。


薄れゆく意識の中、最後に相川の声が耳に響いた。


「許さない、彼女を返せ」



「何言ってんだよ。あんな奴が彼氏だって? ふざけるな! お前に、……君に相応しいのは俺だけだ!」


そうだあんな奴は、神崎 恭子に相応しくない。完璧で、美しい、彼女に相応しいの俺だけだ。


「それなのにお前は、あんな奴と付き合って! 腸が煮えくりかえりそうだったよ、あんな、あんな奴と!」

仕方がないから俺も喋り方を変えてみたんだ。あいつみたいに。吐き気がしそうだった。

それでも、僕は俺になったのに、それなのに……神崎 恭子は俺に見向きもしなかった。

それどころか……


「見てたんだぞ! 俺は、あの日、映画の打ち上げの日。抜け出したお前らが気になってついてったんだ、そしたら、お前らは…… 俺はずっと見てたんだ、海の時も、いつも、いつも」


あの席にいるはずべきなのは、俺なのに。

それなのに橘なんかが神崎 恭子の横にふんぞり返って座ってる。

そんなの、許せるわけないだろ?


「だから、罰を下したんだ。はは、あいつに相応しい末路さ。邪魔者は消えた。さあ恭子、こっちに来るんだ……結婚しよう。君に相応しいのは俺だけだ」


「やめて! こないで! やだ、やめて!」

俺が一歩踏み出すごとに、彼女は逃げ回った。

まったく手間のかかる……


「確保!」


は?


大きな音がすると、突然叫び声が耳をつんざいた。


後ろからどたどたと、何人もの男が入ってくる。


「なんだ、お前ら! 邪魔すんな!」


「警察だ。相川 くぬぎ、住居侵入罪で現行犯逮捕だ」


「は? ふざけるな! あと少しだろ! やめろ!俺と恭子の邪魔を……邪魔をするな!」


手錠をはめられた腕に、力を込めて恭子へ手を伸ばす。


ほら、俺の手を掴むんだ。


誓うよ、君は必ず俺が守る。


必ず幸せにするよ。

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