第9話 お前は誰だ?
「……なんだよ、なんでだよ、なんで俺じゃだめなんだよぉ!」
金髪の男が顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっている。
手には俺が鞄から取り出した手紙が握られていた。
俺が彼に渡したのは、恭子から彼への手紙だった。
俺が恭子の家を飛びしてきた後、追いかけてきた恭子に渡されたものだ。
恭子はずっと前からこの手紙を用意していたらしい。
そこには丁寧な言葉で、彼を気遣いながらも、ハッキリと別れの言葉が書かれていた。
「なあ、なんでお前なんだ? なんで、俺じゃないんだよ」
「……それはわかりません。でも……お願いします。もう恭子とは別れてください」
そう頭をさげる。
これが俺にできる精一杯だった。
俺にはヒーローみたいに、こいつを退治するなんてできない……
だから、せめて彼女のために……
殴ったり、殺したり……、俺にはそんなことできないから、だからせめて彼女のために頭をさげよう。そう思った。
「わかった。もうわかったから、お願いだから帰ってくれ」
男がそう言ってドアを開ける。
後ろ目に見る彼は、どこか寂しそうで、なぜかその姿を俺は忘れてはいけない気がした。
*
ドアを開けると、真っ暗な部屋の隅で彼女がうずくまっていた。
神崎 恭子。
やっぱり綺麗だ。美しい。
そうして俺は彼女に近づく。
一歩、一歩、一歩……
あと少しだ、あと少しで……
彼女が顔を上げた。
暗闇の中、目があう。
彼女の目が大きく見開かれた。
驚いてるんだな、俺が来たことに。
自然とにやける。
そうか、そんなに嬉しいのか、俺がき——
「やめて! こないで!」
は?
世界がひっくり返ったみたいだった。
怯えた目で彼女はそう叫んだ。
彼女は何を言ってるんだ?
俺が来たんだぞ?
そうか動転してるんだな。
「どうしたんだよ? 大丈夫か? 俺だよ俺、彼氏の顔忘れんなよ」
「何言ってるの! やめて! 近づかないで」
彼女は喚きながら、枕を投げてきた。
全く冗談がきついな。
「いい加減にしろよ? ほら、こっちにきなよ。せっかく彼氏が来たんだからさ」
「ふざけないで! 私の彼氏は……悠人は……あなたが……あなたが刺した……」
は? なんだよ、何言ってんだよ。
やめろ。やめろ、やめろ、やめろ。
「どうして…… どうして悠人を刺したの? ねえ、相川君?」
彼女の頬をつたる涙が、淡く光った。
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