第3話 ステュクス、或いはコキュートス。

撮影後の打ち上げでは、先ほどのキスシーンのことを散々囃し立てられた。


「いやー、熱かったねー、キスシーン。なあ? 相川」

始まりは青木のこの言葉だった。

青木は俺たち一年生のリーダー格で、今回の映画ではメガホンを取っている。


「でも本当にいいシーンだったよ、神崎さんも

橘くんもさ……」

話を振られた相川は戸惑いながらも、そうフォローした。


相川はカメラマンとして俺たちの作品を撮ってくれている。

あまり主張をしないタイプだから、何を考えてるかよくわからないけど、カメラマンとしての腕は確かだ。


青木の声をきっかけにして、打ち上げの席は俺たちのキスシーンの話題で持ちきりになってしまった。


「ちょっと、いこ?」

いつまでも止まらない声に辟易とした頃だ、恭子にそう声をかけられた。


「え?」と戸惑う俺を恭子は無理やり外に引っ張っていった。


「え、なになに? 二人でどっか行くの?」

最後に聞こえたのは青木のこの言葉だった。



そうそう、この川だったよな。

彼女が引っ張ってきたのは。

あの時の俺の気持ちは動揺なんてもんじゃすまなかったな。

本当にハラハラさせてくれるよ、彼女は。


だけど、なぜだかこの時の彼女はいままでで一番綺麗だったんだよな。

だから、俺はこの時決めたんだ。

絶対に彼女を守るって。

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