第2話 猟奇的なキスを私にして

その映画は一年生主導で撮ることになった。

ヒロインは神崎 恭子。

そうとなれば、俺としては取るべき選択は一つしかなかった。


死闘ともいえるじゃんけん大会を制し、俺は主役の座をもぎ取ることに成功した。


神様がくれたチャンスだと思ったよ。

そして自分で勝ち取ったチャンスでもあった。


それをものにしないわけはにはいかないからさ、俺の気合の入り方は尋常じゃなかった。


映画の内容はまあよくある、甘いラブストーリーってところだ。これも、俺からしてみればありがたかったね。

恋人役をやって、いい感じになって付き合う。

よくできたストーリだ。


そうして撮影は順調に進んでいき、ラストシーンに突入した。

細かいところは割愛するけど、素直になれなかった恋人同士がやっと素直になるってシーンだ。


撮影場所は大通りから外れた、さみしい路地裏。その場にいたのは俺と彼女と、数人のスタッフだけだった。


そこで俺は彼女を抱き寄せて、唇を重ねた。



あの映画結構好評だったんだよな、リアリティがあるってさ。

本当にキスまでしたんだから当たり前か。


いまリアリティのある作品を撮りたいなら、人を刺す役は俺に任せてほしいよ。

俺はきっと名優になれるだろうな。

なんたって、あの感覚は一生忘れられそうにない。


なんて冗談を言ってる場合でもないんだ。

本当にどうしたらいいのか、わからない。

問題もたくさんある。


袖についた血が落ちない。

どうしよう?


人の目が気になる。

俺が殺人犯だって気づいてるのか?

一度考え出すと恐怖は止まらなかった。


夜の街を照らす街灯すら、いまは俺を追い詰めるサーチライトに感じられた。



横を流れるこの川にいますぐ飛び込んで、全てを終わらせたい。もう全部投げ出したいと、そう思う。

それでもそうするわけにはいかない。

彼女のところに行かなきゃならない。

彼女を守るんだ。


その使命感だけが、いまの俺を突き動かしていた。

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