第2話 猟奇的なキスを私にして
その映画は一年生主導で撮ることになった。
ヒロインは神崎 恭子。
そうとなれば、俺としては取るべき選択は一つしかなかった。
死闘ともいえるじゃんけん大会を制し、俺は主役の座をもぎ取ることに成功した。
神様がくれたチャンスだと思ったよ。
そして自分で勝ち取ったチャンスでもあった。
それをものにしないわけはにはいかないからさ、俺の気合の入り方は尋常じゃなかった。
映画の内容はまあよくある、甘いラブストーリーってところだ。これも、俺からしてみればありがたかったね。
恋人役をやって、いい感じになって付き合う。
よくできたストーリだ。
そうして撮影は順調に進んでいき、ラストシーンに突入した。
細かいところは割愛するけど、素直になれなかった恋人同士がやっと素直になるってシーンだ。
撮影場所は大通りから外れた、さみしい路地裏。その場にいたのは俺と彼女と、数人のスタッフだけだった。
そこで俺は彼女を抱き寄せて、唇を重ねた。
*
あの映画結構好評だったんだよな、リアリティがあるってさ。
本当にキスまでしたんだから当たり前か。
いまリアリティのある作品を撮りたいなら、人を刺す役は俺に任せてほしいよ。
俺はきっと名優になれるだろうな。
なんたって、あの感覚は一生忘れられそうにない。
なんて冗談を言ってる場合でもないんだ。
本当にどうしたらいいのか、わからない。
問題もたくさんある。
袖についた血が落ちない。
どうしよう?
人の目が気になる。
俺が殺人犯だって気づいてるのか?
一度考え出すと恐怖は止まらなかった。
夜の街を照らす街灯すら、いまは俺を追い詰めるサーチライトに感じられた。
横を流れるこの川にいますぐ飛び込んで、全てを終わらせたい。もう全部投げ出したいと、そう思う。
それでもそうするわけにはいかない。
彼女のところに行かなきゃならない。
彼女を守るんだ。
その使命感だけが、いまの俺を突き動かしていた。
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