第74話 カウントダウン?

「ええと・・何だって?」


 俺は戸惑い気味に聞き直した。

 いや、ちゃんと聞こえていたし、内容は理解できたのだが・・。


"我が創りし調停者を細胞レベルで侵し、本来の働きを阻害されていた"


「・・乗っ取られてたってこと?代行とかいう巨人達が?・・何とかゴッドとかいうシリーズ全部?」


"正確には、あれらを手足として操る知性体が侵されていた"


「あの桃色に?」


"モモイロとは?"


「俺がたおした吸血鬼」


"あれは先代の遺物だが・・あれもまた知性体の支配下にあった"


「・・・その知性体とかって、気持ち悪い性癖とか持ってんの?」


"知性体そのものに性別は無い"


「じゃ、操ってる奴?」


"集団による思考侵入だからな・・いずれかの者が特殊な性癖を有している可能性はある"


「なに?・・集団って、そんな、何人も居るのか?」


"ヒトとは違うのだが・・ある種の思考を持ち続けた複数の存在による侵入だ。すでに中心核にまで達している"


「ふうん・・よく解らんねぇ」


"汚染された調停者達・・・神と位置付けられた者達をすべて廃棄するために、我は調和された予定を変更して再臨した"


「もう、完全なる監理者とかじゃ無いねぇ・・・ボロボロじゃん」


"調和を乱す者による妨害工作である。我の創りしことわりに破綻は無い"


「はいはい・・」


"ユート・リュート・・先代の遺物よ"


「・・へ?俺の名前、知ってんの?」


"汚染される調停者は調停者にあらず・・汚染されぬ者こそ、調停者に相応しい"


「・・む?」


"だが、我が理を乱すは、ユート・リュートも同様である。なれど、いまや汚染物と化した知性体に抗するに足る者は少ない"


「あぁ・・なんか、そういう流れ?俺に後始末をやれって話?」


"一つ問おう"


「・・その前に、俺がいてんだから答えろよ」


"我が創りし理に異を唱えるか?"


「ヒトの話を聴かんタイプか?」


"我が創りし理を受け入れる気は無いか?"


「ごちゃごちゃ邪魔するなら、俺がぶっ潰す」


"我が創りし理を・・"


「クソつまらんことわりなんか創りやがって、ボロボロじゃないかっ!なにが汚染だ?要は乗っ取られたんだろ?どこぞの魔導屋か何かに?馬鹿だろ?どんだけ間が抜けてんだ?完全なる何だって?」


"我は完全なる監理・・"


「黙れ、ボンクラ!無能を晒して威張んなっ!言い訳ばっかりしてんじゃねぇっ!てめぇが監理者だってんなら、ちゃっちゃと知性体とやらの汚染を取り除けや?できんだろ、その程度?監理者なら簡単だろぉ?あぁん?」


 俺は、得意の煽りを混ぜ込んだ大人の会話を試みた。


"我は完全な・・"


「うるせぇよ、ぐだぐだ言わずに、てめぇで修正やってこいやっ!乗っ取られた調停者なんかぶっ飛ばして、間抜けな知性体を粉砕すりゃぁ良いだろうがっ!」


"万全を期したが故に、我はこの地に・・我が創りし世界に干渉する力を持たぬ"


「・・は?」


"完全なる理に護られた世界に、修正作業は起こり得ない"


「山盛りに問題が起こってんじゃん?」


 こいつ脳が溶けてやがる。


"想定外の事象だ"


「・・ごめん、笑って良い?腹がよじれて辛いんだけど?どんだけ、みっともない事になってんの?馬鹿なの?」


"我は完全なる・・"


「もう、それは良いから・・って、。手出しできんとか言って、さっき大砲撃って来たじゃんか?」


"ここは我が干渉地なり・・移送により、ユート・リュートを我が干渉地に召喚したのだ"


「なるほど・・手出しできる場所へ強制召喚したのか。まあ、それしか無いか・・でも、分かってる?おまえ、このままじゃ消滅させられるぜ?うちの嫁さん達、敵に回しちゃってんだぞ?この意味分かってる?」


 自分の頭に銃口押し付けてるようなもんだぞ?それも、超威力の大口径を・・。

 危機意識なさ過ぎだろ?


"ユート・リュートによって我が理の外へ身を置く者達・・その脅威は理解できている。敵対するつもりは無い"


「いや・・俺を掠った時点で、もう敵対してんだよ?おまえ、もう的になっちゃってんの。おわかり?」


 ヨミやウル達が、このまま黙っている訳無いだろ?ここがどこだか知らないが、アンコが行き来したってことは・・つまり、そう言うことなんだぜ?もう、ほぼラスト・カウントダウンよ?


"・・・なぜだ?我は、あの者達に攻撃を加えていない"


「やっぱ、馬鹿だわ・・おまえ、哀しいくらいに間抜けだな」


"我は完全なる監理者だ。我が知能は全宇宙で最高の演算能力を有し・・"


「おまえは消滅させられる。どこに居ようと、必ず・・確実に破壊されて消える」


"監理外の存在を認めれば、我が創りし理が不完全となる"


 まだ言ってる。こいつ、本気で馬鹿なのか?

 それとも自殺志願者?


「なら、不完全を認めろよ。そもそも、てめぇが創った知性体を乗っ取ったのは俺達じゃねぇよ?調停者が暴れ回ってんのも、そうだろ?そんだけ問題だらけで、まだ完全とか言ってんのか?」


"完全であることは我が存在意義なり。我は完全なる監理者なり"


「だが、不完全な創世者だった」


"我が創りし理は完全なり"


「だが、想定外が起きている」


"すべてを想定は出来ない"


「だから不完全なんじゃないか」


 こいつ、もう駄目かもしれん。まだ、極北の地で出会った先代の監理者の方が物わかりが良かった。


"・・・誤作動する知性体の停止もしくは破壊を要請する"


「いやいや、なにいきなり飛ばしてんの?俺は・・俺達は、おまえの理の外にいる者なんだろ?その辺はどうなった?攻撃しておいて、頼み事とか、頭おかしいんか?」


"我が知能は・・"


「ただの阿呆だ。知能も何もあるか、ぼけぇ!間が抜けすぎて、びっくりするわっ!」


 俺は分かりやすく諭そうとした。少し乱暴な言葉遣いになったが、かえって伝わることもある。そういう試みだ。


"対価を求めるか?"


「・・・もうね、何て言うか・・凄いよ、おまえ」


"調停者の権能を部分譲渡する"


「はぁ・・」


 思いっきり疲れた溜息が漏れ出た。


"これにより、我が創りし理における敵対者では無くなる。よって、互いに攻撃対象となり得ない"


「だからぁ・・そんなクソ理屈、うちの嫁さん達には通用しないから。それ、おまえだけの理屈だから」


"敵対者でない者を攻撃する理由は何だ?"


「敵対者じゃん?」


"調停者たる資格を譲渡した時点で、監理者たる我の攻撃対象となり得ない"


「俺を誘拐して攻撃を加えた時点で敵対者確定。俺を元の場所に戻して賠償を行って・・まあ、ぎりぎり仲裁が成るかどうかだねぇ」


"誘拐は行っていない"


「もう時間無いよ?分かってんだろ?」


"破壊行動を停止せよ。ヒト種なる者は、水と空気のない場所では生存できない。移送による攻撃手段はある。無闇な攻撃は望まぬ未来を招く"


「それは、おまえの理の中の話だろ?俺達は、おまえの創った理の外にいるんだぜ?ちゃんと計算できてるかい?水と空気が無いことが何かの抑止力になるの?」


"先代監理者の遺物・・我が監理を阻害するか"


「おまえの不完全な創りものを治せるのは、おまえの摂理の外にいる者だけだろ?」


"我は完全なる監理者なり・・"


「もう良いから、ソレは・・それより、まず、俺による調停を受け入れるかどうか決めてくれ」


"外なる者、ユート・リュートによる調停内容を教えよ"


「うちの嫁さん達による、おまえの破壊行動を自粛させる」


"我は敵対者では無い"


「いいや敵対者だ。嫁さん達はおまえを破壊する。発見、即破壊だ。そのために、ここへ迫って来ている」


"我は永遠の監理者なり・・"


「永遠どころか、あと数時間で消滅するかもな?」


"・・調停を望む"


「よろしい。では、対価を提示して貰おう。俺は無条件では働かないぞ」


 俺は、あわあわと大あくびをして涙のこぼれた眼を擦った。

 

 なんかね、ボク疲れちゃったよ。

 これ、監理者をサクッと滅した方が簡単で良いんじゃないかな?

 ぐだぐだな対話とか要らなかったんじゃ?


"至急の調停を請う"


 俺の思考を察知したかのように、自称完全なる監理者が言葉を改めた。

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