第8話 うん、知ってたよ。

竹中さんが帰ると、もうとてつもないほど苦しかった。息が上がって、過呼吸気味になって、それでも、まっすぐ見つめる。自分の手を。たぶん、いや、ほぼ90%の確率で、泉さんは不幸になる。知りたくなかった、っと私をなじる。だって、だって、、それでも、仕方が無い。仕事だから。



「香奈恵さん?少し早かったですか?」

「あぁ、泉さん。いえ、そうじゃ無いんですけど。。」

「言いにくいの?気にしないでいいのよ、私の事は。お兄ちゃんがろくでなしなのは知ってるし。」

「いや、死んでるんです。お兄さん。呼び戻す事が出来ないほど昔に。」

「そう。。なんとなくそうなんじゃないかって思ってたんだけど。。。そう。」

「説明すると、私はま、ある地方に伝わる力を借りて、死者の霊を少しの間だけ呼び戻せるんです。でも、制限があって、死んでから5年以上過ぎている場合や、死に方があまりにも暴力的だと、無理なんです。前者は物理的に、後者は依頼人と私の安全を考えて。」

「で、お兄ちゃんは死んでから5年以上過ぎているから、会えないのね。」

「いや、両方です。とても珍しいケースなんですが、死に方が無惨すぎた上に、時間が経ちすぎたっという事なんです。」

「そう。。。ありがとうね。一段落したわ。」

「いえ、でも、忘れないで下さいね。お兄さんのこと。」

「うん。そうね。忘れない。でも、香奈恵さんも、忘れないでね。私とお兄さんの事。」

「はい。また、いらして下さい。」



忘れないでっか。。。忘れた方が良いのかもしれない。その方がつらくない。彼女は私の事なじらなかった。でも目には涙が溢れて頬を流れないのが不思議なくらい涙でいっぱいだった。本当なら、私を罵倒しながら泣きわめきたかったんだろう。でも、彼女は知っていた。そうしても無駄な事を。だから耐えた。私は出来るのかわからない。もしかしたら、いや、わからない。でも、そのときは出来るだけ我慢するようにしよう。

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