第7話 どうしても

どうしても会いたい。でも、会えない。そんな気持ちに区切りをつけるのは結構難しい。だったら、会えてしまえば良い。そんな気持ちで始めたって言ってたお兄ちゃん。消えたお兄ちゃん。


「何ぼーっとしてるんだよ、危ないぞ。」

「あ、うん。ごめん。」

「昨日の事考えてたのか?」

「ううん。香奈恵堂の由来っていうか、なんで始めたのはお兄ちゃんなのに、香奈恵堂って名前にしたんだろうなあって思ってさ。」

「そっか。」

「そう言えばさ、昨日少し寝てたじゃん、あのときにね、変な事言ってたよ。」

「え、マジで?」

「うん。教えてあげようか?」

「お願いします。」

「いいよ。えっとね、香奈恵、ごめん。金がない。」

「何それ。」

「知らないわよ。あなたの夢だし。」

「そりゃ、そうだ。」


そうこう話してるうちに、開店時間がやって来た。少しうれしいような、寂しいような、よくわからない気持ちになる。


「じゃ、俺は2人またつれてくるわ。」

「うん、お願い。」


その間に細かい作業を終わらせる。お湯を沸かしたり、お茶の出す準備をしたり、団扇を用意したり。


「おーい。来たぞー。」

「はーい。今表の玄関開けますねー。」

「初めまして、琴音から紹介してもらいました泉と言います。」

「ご丁寧にありがとうございます。私が香奈恵です。少し散らかってますけど、中へどうぞ。」

「ありがとうございます。」

「じゃ、俺はこれで。」

「はい、ありがとうございました。」


「あ、あの。私の会いたい人は兄なんです。」

「あ、そうなんですか。私にも兄がいますよ。」

「そうなんですか?」

「ええ。で、お兄様はどんなかたなんですか?」

「えっと、兄はとても黒いんです。ここら辺の人に見えないほど黒いんです。それで、背が高くって、強面で、でも、優しいんです。」

「そうなんですか。良いお兄様をお持ちなんですね。」

「私に勿体ないくらい。」

「で、お兄様のお名前を伺っても良いですか?」

「はい。竹中大輔といいます。」

「そう、ですか。じゃあ、明日またいらして下さい。」

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