第3話 なんで君がそこにいるの

琴音の一件が無事終わって、気楽にとはいかなかった。

琴音の話は口々に話され、あっという間に誰でもが聞いたことのある話になっていた。でも、噂話とは昔から必ず尾ひれがつくものっと決まっている。今回も例外ではなく、香奈恵はお寺を離れた尼さんだの、湊と付き合ってるだの戯言に近いものから、湊と連んで来る人を騙すだの、少し悪質なものまで囁かれていた。


「湊さん、貴方からも否定してくださいよ。少し疲れます、さすがに。」

「はいはい、でも、また連れてきたよ。」

「あぁ、通りで。えっと、初めまして香奈恵堂の香奈恵です。よろしくお願いします。」

「初めまして。甲斐だ。」

「では、甲斐さんはどなたに会いたいのですか?」

「兄の有栖。しばらく会ってないけど、会いたい。」

「そうなんですね。私も兄がいるんですよ。早速ですけど、お兄さんの背丈、年齢、容貌、あとは特徴的なとことか教えてもらっていいですか?」

「あ、あぁ。兄はな不思議なほど背が高い人だった。俺の3つ上の20。顔はそこそこイケメンで、特徴としては右の頬に切り傷があるんだ。大きな。」


そう言いながら甲斐がどれくらいのか指で示した。それは10cmを優に超え、頬の端から端まで届きそうなほどだった。


「そうなんですね。こんな似顔絵でいいですか?」

「あ、あぁ。兄にそっくりだ。」

「わかりました。また3日後にいらしてください。」


そう言うとさっさと席を立ち店の奥に方、つまり自宅の方へ消えていった。その顔は誰が見たこともないくらい恐ろしく、それでいて艶やかだった。恐いのに美しく目が離せないその衝動を抑えるのが無理だったようで、甲斐はつい、呼び止めてしまった。すると、艶やかだった表情から艶やかさが消え、そこにはただただ恐ろしい鬼女の顔のみ残っていた。

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