第2話 柳も、未練も、全て消えるはず

そう言ったものの、とてもめんどくさい事になりそうだ。

そう思いつつも、香奈恵は準備に取りかかる。

和蠟燭に、お札に、数珠に、何か良くわからない黄ばんだ紙に、とてつもない量の火鉢。こんなたくさん持てる訳が無い。

そんなはずなのに、ひょいっと軽々と持ち上げる。

何度見ても不思議でしょうがない。しかし、そうなのだ。

夜7時半を少し過ぎて、辺りは何も無い川岸だからか、誰もいない。

虫も一匹たりともいない。何も無いのだ。ただ、柳の木が、川に向かって寄りかかっている。

すると、香奈恵はニカっと笑って、和蠟燭で円を描くように置いていく。もちろん、柳の木を囲んで。そして、柳の木に向かって、火鉢を置いていく。和蠟燭と火鉢の二重の円が出来ると、満足そうにその場で、黄ばんだ紙を千切って、燃やしていく。

何の意味も無い儀式。ただそれっぽく魅せるためだけに行われたそれは、段々と不気味さを増していく。

夜8時。約束に時間に琴音と、湊がそろってやって来た。

「そろそろだな、香奈恵。」

「いえ、まだです。最後に残ってる事があります。」

「あ、そうだった。これだろ?」

「やっぱ、準備して頂けたんですね。よかった」

そう言い残して、香奈恵は琴音をつれて、火鉢の間を縫いながら柳の木まで行った。

「琴音さん、二条先輩は、舞妓さんになってました。」

「そう、なんですか。。。」

「ええ、でも、貴女は知っていたはずです。」

「いいえ、わ、私は、知りませんでした。」

「そう、言うと思ってました。仕方がありません。お呼び立てしましょうか。」

そう言うと、穏やかだった香奈恵の表情は急に険しくなり、そして、艶やかに微笑んだ。

「二条さん、こちらへどうぞ。」

すると、すーっと透けとおる様な淡い体を持った人が、近づいて来た。

足も無く、触れる事も出来ない。なのに、その容姿とは懸け離れた清らかな神聖な眼差しと声が聞こえる。

「久しぶりね、琴音ちゃん。私も貴女に逢いたかった。」

「せ、先輩。な、なんで?あのとき、え?」

意味の為さない、言葉の音だけの羅列が何よりも示していた。

「そうね、貴女はそう思ったかもしれない。でも、違ったの。」

「え、せ、先輩、ごめんなさい。私が。私が。」

その先は、言葉にもならず、ただ嗚咽だけが漏れた。

この先に待ってる過酷な運命も知らずに、ただただ涙を流し、嗚咽をあげていた。

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