香奈恵堂にお任せを
サクニジ
第1話 今晩は、柳の木でお逢いできましょう?
ここは暗い。何も無く、誰もいない。でも、懐かしい。そう思ってた香奈恵は、どうしてか悪い予感がした。こういう予感は当たるのだからめんどくさいけど、仕方ない。黒い服に着替え、店へ出る。
「あ、悪いなぁ。こんな時間に。」
「いえ、これが仕事ですから。で、湊さん、どうなさいましたの?」
「いやぁ、大変な事になってな。俺の友達の妹がお前に会いたいと言ってな。」
「じゃあ、あれですか?またですか。。。」
「仕方ないだろ。俺の仕事はお前に仕事を回すこと。それだけだ。」
「それはそうと、そのお友達は?」
「あぁ、ま、お前が良いって言ってくれるかわかんねぇって言ったら、明日の10時に伺いますってさ。」
「湊さん、貴男って人は。」
「だってよ、時間も時間だし。つれてくるの面倒だしよ。」
「はいはい。じゃあ、また明日。」
戸を閉めると、鍵をかけ、部屋へ戻った。
床に布団を敷き、入る。
夏のこの時期は、暑い。でも、なぜか今日はとても寒い。凍えるほど寒い。
こんな日にはそっと兄の事を思う。
なぜ私にこの仕事を継がせ、消えてしまったのか。もう何度目とわからないこの問いはその回数分答えを得られてない。
悲しみよりも、寂しさよりも、悔しさよりも、ただただ純粋な謎。
悶々と悩んでいたら朝になっていた。
寝不足の目をこすり、小さくため息を着いた後布団をしまう。
部屋の戸の鍵をかけ、店の中を掃き、雑巾掛けをし、お客様を迎える準備をする。
そうこうしていると、時間が来た。
「香奈恵いるか?つれて来たぞ。」
「はいはい、後ろのお部屋へお通しして?」
「あいよ。鍵はいつものとこだよな?」
「ええ、そうよ。」
「ごめんな、こっちだよ。琴音」
「う、うん。ごめんね、湊兄ぃ。」
「いいよ、気にすんな。」
「ようこそ、香奈恵堂の香奈恵と申します。」
「あ、琴音です。」
「えっと、琴音さん。あなたが会いたいのは誰ですか?」
「私が会いたいのは二条先輩です。」
「では、その二条先輩の容姿、年齢、性別、会いたい理由を教えて下さい。」
「わかりました。先輩は女で、私の一つ上の18歳で、一般的な人よりも背は高く、右頬に大きなほくろがあります。」
「そうですか。このような人ですか?」
そうやって、書いた絵を見せると、顔がパッと明るくなった。
「そうです。」
「わかりました。では、夜8時に柳の木の下で待っててください。」
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