組合にて

「あ! ヒノキさん、ウタコさん、おかえりなさい! 随分早かったですね!」


 快活な声でヒノキとウタコに話しかけたのは、長い黒髪をおさげに纏めた少女だった。

 ヒノキとウタコがいるのは、異物の退治を中心に手広く事業を興している『異物鎮魂組合』の本部だった。少女は受け付けの担当者だった。早朝という事もあり、本部には職員以外誰もいなかった。


「え、えーと……、ただいま、ナツメちゃん。バケガニ退治が完了したから帰ってきたよ」


 ヒノキが柔らかい口調で言った。


「はい、依頼主の村長さんからも郵便で報告を受けてますよ。喜んでるみたいです」


 ナツメと呼ばれた少女はハキハキと言った。


「そっか。ならなによりだよ」

「……あの、一つ聞きたい事があるんですけど」

「何?」

「えっと、異物退治にはいつも一人で出向いているのに、今回どうしてウタコさんを連れていったのかなって」

「あー……」


 ヒノキは一瞬だけ目を逸らし、すぐに戻して、


「……実技指導? みたいな感じかな。異物退治、実際見てもらった方が早い部分があるから」


 軽く頭を掻きながら言った。


「……実際、沢山のいい経験ができました」


 ウタコも頷きながら口を開いた。


「へー……。……あ、ほ、報酬金ですよね! ちょっとすいません!」


 ナツメはそう言いながら奥に引っ込み、少しして、それなりの大きさの箱を両手で抱えて戻ってきた。

 ナツメは箱を二人の前に置いた。


「中身は届いた時にスギさんと確認したのですが、念のためご確認をよろしくお願いします」

「ん、ありがとう」


 ヒノキは礼を言うと、黄金色に輝く小判を数え始めた。途中からウタコが手伝い始めたのもあって、短時間で数え終える事が出来た。


「…………うん、大丈夫みたいだね。……ところで、スギさんは?」

「あー……、何でも私達には見せられないような書類を纏めるとか何とか言ってましたね」

「そっか。じゃあ、それが終わったら、ちゃんと帰ってきましたって言っておいてください。それじゃ。ウタコ、行くよ」


 ヒノキはそう言うと、組合を後にした。



兄様あにさま、良かったのですか? 嘘をついて……」


 ヒノキの隣を歩きながら、ウタコが咎めるように言った。


「うーん、いや、嘘は言ってないけど……駄目だったか?」

「…………」


 ウタコは少しの間ヒノキを見上げ、


「……まあ、あの場には他に誰もいなかったからいいです。バケガニの生態も学べましたし」


 溜め息混じりに言った。


「仕方ないだろ、この辺に来た頃調べたけど、『記憶がない』だなんて、それこそ『嘘八百』って後ろ指を指されるんだから……」


 ヒノキは悔しそうに言った。


「…………どうして、なんでしょうね……。物忘れだなんて、誰にだってあるのに……」


 ウタコは俯いて言った。


「なあ、何でなんだろうな……」


 それから暫く沈黙が続いて、


「……まあ、こればっかりは薬じゃあどうにもならないからな。ゆっくり考えよう。それよりさ、麺屋さんとこいかないか? この時間帯ならギリギリやってると思うし、朝飯にさ」


 ヒノキがそれを破った。

 ウタコは少しの間キョトンとして、


「……そうですね、帰ってきたって報告ついでに、行きましょうか」


 そう言って、そっと微笑んだ。

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