遠い梢がゆれている


近い梢がゆれはじめる


それだけの一瞬を、私は見逃さずにいられた


讃美歌に気をとられずに、見逃さずにいられた


空は薄灰色にくもっていた



夜のしじまに


飲みさしのコップがしんと冷えゆく


走る度に


痛む鼻先をあたためたくなる



家族の優しさがわずらわしく


陽光に溶けだしたはずの本の活字が見つめる底から滲みだす


夜が意味ありげにそよいでいる




ああ、秋が来たのですね


誰かが待ちこがれていた秋が

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