第13話 宅配
大きな木箱を抱えて、俺とリベロは城の廊下を歩いていた。
途中途中ですれ違う兵士がちらちらとこちらを見てくるが、無視だ。
「マオ、大丈夫?」
「…………」
俺は立ち止まって、ぷるぷると震える腕で抱えていた木箱を足下に下ろした。
手が真っ赤だ。こんなに掌が赤くなったのって体育の授業で懸垂をやらされた時以来だな。
「僕が運ぼうか?」
「いや、此処で逃げたら男が廃る。意地でもこいつは俺が運ぶ」
「無理はしないでね?」
くそ、隷属の首輪さえ填められてなかったらこんな荷物なんて片手で運べたのに。
でも、文句は言っても弱音は吐かない。勇者として、目の前の仕事を放り出すなんてことはあっちゃならないのだ。
俺は掌を開いたり握ったりしながら上がりかけていた呼吸を整えて、木箱を持ち上げた。
──出来上がった弁当を訓練場にいる兵士に届けろ。
シーグレットにそう言いつけられて厨房を出てから十分が経過しているが、目的地にはまだ着かないのだろうか。
本当に、この城は無駄に広すぎる。
「……訓練場ってまだなのか?」
「ううん、もうすぐだよ」
三つも木箱を担いでいるというのに、リベロは平然としている。
兵士顔負けの腕力だな。戦いに出たら、いい働きができるんじゃないか? こいつ。
「そこの廊下を右に曲がって……ほら、着いた」
やっと着いたのか。
俺たちは立ち止まった。
豪華絢爛な城の内装にはそぐわない、物々しい雰囲気の鉄の扉が目の前に立ち塞がっていた。
扉の向こうからは、何やら派手な物音や掛け声が聞こえてくる。
どうやら、中にいる兵士は鍛錬の真っ最中のようだ。
「それじゃ、開けるね」
言って、リベロは扉に片手を掛けた。
がちゃり、と重たい音を発しながら扉が内側に開かれていく。
むわっと熱気の篭った空気が中から流れてくる。
訓練場は学校の校庭くらいの広さがあり、そこかしこで兵士たちが木でできた人形を相手に槍や剣の訓練をしていた。
壁に立て掛けられているのは、どれも年季の入った武器の数々。
床の所々にべったりと付いている血の跡が、何とも生々しい。
ばぁん、と宙で爆発が起きたので俺は思わず肩を竦ませた。
おそらく、誰かが魔法を使ったのだろう。空気中の塵が焦げる臭いが鼻をふわっと掠めていった。
俺たちは訓練の邪魔にならないように、部屋の隅の方に移動して木箱を置いた。
シーグレットが言うには、此処の兵士を統括している部隊長に報告しろとのことだったが……
それらしい人物がいないか探していると、頭上が急に暗くなった。
首に、何か硬い物が巻き付く感触。
上体を勢い良く引っ張られて、俺はその場にうつ伏せに倒れてしまった。
腕をがっちりとホールドされているせいで身動きが取れない。
何とか動かせる頭を持ち上げて、俺は俺を床に引き倒した人物の姿を探した。
「……勇者とはこの程度か。興醒めだな」
凛とした女の声が、頭の上から聞こえてくる。
「所詮は人間、我らに歯向かおうと考えるのが間違いなのだ」
銀の鎧を纏った、まるで戦乙女(ヴァルキリー)のような出で立ちの女が、俺のことを冷ややかな目で見下ろしていた。
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