第6話 ポークピカタとポテトサラダ
「今日の夕飯だが」
厨房にて。俺を含めた料理人たちを並ばせて、シーグレットは傍らにある調理台を叩きながら言った。
「王が肉料理を御所望だ。なので肉料理を作る」
シーグレットが叩く調理台の上には、何の肉かは分からないが脂身の少ない赤身肉がどんと載っていた。
大きさは大人一人分くらいある。包丁を入れるのが大変そうな塊肉だ。
「マオ」
彼が唐突に俺の名を呼んだ。
「お前だったらこいつをどう調理する?」
周囲の料理人たちの視線が俺に集中する。
そんな期待の眼差しで見ないでくれよ。俺が作る料理はあくまで家庭料理の域を出ないんだから。
それにしても……肉料理か。
肉料理で真っ先に思い浮かぶのはステーキ、そしてハンバーグだが……
どっちもド定番の料理だし、この世界でもステーキやハンバーグは普通にあったから、食い飽きてるだろうということは薄々予想が付く。
普通にそれらを作ってもいいのだろうが、それじゃ此処の料理人たちは納得しないだろうな。
考え込む俺の目に、調理台に載っている食材が映った。
あれは……チーズか。随分でかい塊だな。
肉とチーズといえば。
……そうだな。ポークピカタなんていいかもしれない。
あの肉が豚肉である保障はないけど、肉であることに変わりはないから、同じ調理の仕方で大丈夫だろう。
そうと決まれば、早速調理開始だ。
まずは肉に付ける衣を作る。
溶いた卵にみじん切りにしたパセリ、小麦粉、細かく削ったチーズを入れて混ぜ合わせる。
チーズを削るのは料理人たちに手伝ってもらったお陰で手早く粉にすることができた。
次に肉を切る。此処も手伝ってもらって厚さ一センチくらいの薄さに切ったら、包丁の腹で肉を叩いて半分くらいの厚さにする。
この肉を叩く作業というのは大事なので、面倒でもしっかりやること。しっかり叩いておかないと調理しているうちに肉が硬くなるからな。
肉を叩き終えたら塩と胡椒を振り、小麦粉をまぶす。余分な粉ははたいておくことも忘れずに。
そうしたら先程作った卵の衣を、肉の片面にだけ付ける。
フライパンを熱してバターを入れて溶かしたら、衣を付けた面を下にして肉を焼く。この時の火力は強めの中火がベストだが、竈ではそこまで微調整はできないのがネックなんだよな。
肉に焼き色が付いたらひっくり返して更に焼いていく。
この時火を通し過ぎると肉のジューシーさが失われるので要注意。押してみて弾力が出るまで焼いていくのがベストだ。
熱が十分に通ったら出来上がりだ。
これ一品だけでは淋しいので、添え物も作っていくことにする。
まずはジャガイモ。皮を剥いて食べやすい大きさに切ったらふかして柔らかくする。
次に胡瓜、人参、玉葱をスライスして軽く塩揉みをしたら、水にさらしてよく水気を切る。
ジャガイモは一部を潰してボウルにあけ、よく和える。まんべんなく混ざったら砂糖、塩、胡椒を加えて味付けをし、水気を切っておいた胡瓜、人参、玉葱を加えてジャガイモが潰れないように混ぜる。優しく混ぜるのが上手く作るコツだ。
最後にマヨネーズを加えて(異世界にマヨネーズがあったのが驚きだ)、味を見て物足りないと感じたら塩と胡椒を加えて味を調える。
これで、完成。ポテトサラダの出来上がりだ。
ポークピカタには芋料理が合うんだよ。ただふかしただけのジャガイモでも合うから、その辺りは色々と試して自分好みの料理の組み合わせを見つけてほしい。
「ポークピカタとポテトサラダだ」
大量にできた料理を前に、シーグレットは目を輝かせていた。
「これも初めて見る料理だ。肉とチーズの組み合わせは料理としてはありきたりだが、こんな組み合わせ方があるなんてな」
ポークピカタ(豚肉じゃないかもしれないが)をひとつ指で摘まんで、ぱくり。
「……美味いッ!」
彼の大声に、周囲の料理人たちからおおっという声が上がる。
……視線が皿に釘付けになってるよ、あんたたち。
「これなら王も喜ぶ。いい料理を作ってくれたなマオ!」
シーグレットは俺の背中をばんばんと叩いて、笑った。
身体が大きいから力も強いな、こいつ。叩かれた背中がびりびりしてるよ。
「お前たち、作り方は見てたな? 今から同じもんを作れ。兵士たちの食事の時間に間に合わせるんだぞ!」
『はいっ』
姿勢を正して元気の良い返事をして、料理人たちが各々の調理台へと向かっていく。
彼らが料理を作る間、俺は作り方のコツを教える役割に回ったよ。
流石に一人で何百人といる兵士の食事までは作れないからな。こいつらにもしっかり働いてもらわないと。
兵士全員分の食事を作り終えた時、厨房の時計は夕方を指し示していた。
何とか定時に間に合ったみたいだな。
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