第三刻 規則
授業をサボって木陰で寝ていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「君はいつも一人でいるんだね」
「またあんたか……。なんで最近絡んでくるんだ」
目を開くと先日もここに来た白髪の少女がいた。
「うーんそうだねー。……君が気になるから、かな」
「……あんまり俺に関わらないでくれ」
「なんで?」
不思議そうに首を傾げる少女。
「……とにかく俺とは関わるな。わかったな」
そう言って俺は起き上がり、校舎に戻っていった。
散歩から帰ってきてから数時間が経った。
部屋に帰ってきてからは朝飯を食べて、部屋に備え付けてあったテレビで適当な番組を見ていた。なにか過去の記憶につながりそうなものがないかと思ったが見つからなかった——ニュースを見ている限り今日は10月15日のようだ——ので、途中からは何を考えるでもなく横になっているだけだった。
そうこうしているうちに正午になりそうだったので篠原と約束した場所に向かう。
『AA』本部の正面に着くと、篠原が朝別れた場所に立っていた。
「すまん少し遅れた。待ったか?」
「ううん、私もいま来たとこ」
そう言って建物に入っていく彼女に続いて入る。
昨日歩いた廊下を進んでいく。昼間だからなのか、昨日よりも職員らしき人物があちらこちらにいて賑やかだ。
「沙奈ちゃん今日も忙しいの?」
「はい、今日はこの新入りさんを所長のとこに連れて行かなきゃ行けないんですよ」
「あらこの人が例の新人?」
そう言って視線をこちらに向けてくる50代くらいのおばさん。
「神宮 清です。これからお世話になります」
「
篠原と犬飼さんが少し世間話をした後別れて目的の場所に向かう。
「人気者だな」
「人気者っていうか顔が広いだけだね。さっきも言ったけどこれでも結構偉い人だから、いろんな人と話す機会が多いこともあって顔が広くなっていくんだ」
「お偉いさんって話す機会少なそうなもんだけど違うのか?」
「うーん、まあ普通はそうなのかな。ただうちって公にできないことを扱ってるからどうも人手不足で」
「ふーん」
そんな話をしながら歩いていると、一階廊下奥の部屋の前に辿り着く。
学校らしい建物とは不釣り合いなほど
篠原がその扉にノックをする。
「沙奈です。入りますね」
それだけ言って彼女は扉を開ける。
扉の先はカーテンが閉められていて薄暗かったが、これもまた豪奢な内装の部屋だった。赤の
その部屋の奥、社長机に座っている一人の男性が視界に映る。男性にしては少し長めの白い髪。その髪のせいか、老人だと言われれば老人に見えるし、若者だと言われれば若者のようにも見える。
男性は穏やかな表情を浮かべているが、しかしその表情に似合わず強制的に視線を惹きつけるかのような存在感を放っていた。
「司さん、連れてきたよ」
男性の前まで歩いていく篠原の後に続いて歩く。
「ああ、ありがとう」
そう言ってこちらに視線を向ける男性。こちらの様子を窺うかのようにこちらを見ている。
「初めまして、神宮 清くん。僕は『AA』のリーダーをやっている
「神宮清です。これからよろしくお願いします」
それを聞いて微笑みながら頷く男性。
「こちらこそよろしく。僕のことは司でも信二でも呼んでもらって構わないよ」
「わかりました司さん。ところで今日は話したいことがあるって聞いて来たんですけど」
「そうそう、その話があったんだよね」
そう言って司さんは机の引き出しから薄い冊子出してこちらに渡してくる。
表紙には「『AA』保護対象規則」と書いてある。
中を見ると『AA』で生活する上での注意事項が細かく書いてあった。
街の外に出る場合はきちんと申請すること、街の中なら基本的に行動は自由、生活物資が不足している場合は申請すれば買ってもらえること、など様々なことが書いてあった。
「そこにも書いてある通りこの街の中なら基本的に行動は自由だ。なにか事件を起こしたりしない限りこちらから行動を制限するつもりはないよ」
「申請しないと街の外に出られないというのは?」
「『アンチ』が狙われているって話は聞いたよね?僕ら『AA』はそれを保護するための組織だ。なら必要最低限の安全は確保しなければいけない。ということで外出申請があればこちらから護衛をつけることができるんだよ」
なるほど。確かに護衛を付けて貰えるのなら安心して外に出ることが可能だろう。
「それと君はいま以前持っていた財布と衣服しか持っていないのだろう?」
「そうですね……。ただ財布は本当に自分のものかわからないので今朝の朝食分しか使ってませんけど」
そう答えると司さんは笑う。
「ははっ、それは君のものでほぼ間違いないだろう。もし間違っていたらこちらから謝罪すればいいし好きに使うと良い」
司さんはそう言ってくれるがやはり少し抵抗がある。使うのは最低限度にとどめておこう。
「それで話の続きなんだけどね、君はいま携帯端末をなにも持っていない状況だ。この状況はこちらとしても少し都合が悪い。なので近いうちに携帯端末を渡すことになると思うから、それだけ覚えておいてほしい」
「わかりました」
それから
篠原はまだ話があると言って残っていたので、来るときに通った廊下を一人で歩く。
少し日が隠れてきたせいか、職員らしき人物も見当たらない。行きは賑やかだった廊下も今は一人歩く足音だけが響いている。
そこに、昨日篠原と歩いた時のような虚しさはなかった。
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