30.落ちた心


『ルシファー …』


どこからともなく聞こえた声に、いつの間にか見ていた夢の世界に飛び込んでいた。

ケーニルスを打ち払った手の感触が己の立つ場所を教えてくれたのだ。


「き、貴様!?」


アイレーナの身の内にから放たれた光。その背には片翼を広げアドラスティアの一刀が光を返していた。


副翼はその天力を取り戻し、十翼の天装衣を纏う。その出でたる覇気はゼウスのモノと勝るとも劣らず、共鳴するかの様に背光の輪も色めき立つのだ。


「…お前にはいつも驚かされてばかりだ」


嘲笑う様に鼻を鳴らしたゼウスは剣を下げた。


「…そういきり立つな。せっかくなのだ。最後に話でもしようじゃないか?」


呪縛の輪が解かれ飛び出していたラファールはアイレーナに寄り添う。上手く力が入らず身を起こしたその目は、今だ信じられない様子でルシファーの背中に目をやっていた。


「…描いた筋書きとは随分変わってしまったが、コレはコレでよかったのかもしれないな…

勘のいいお前なら既に気付いているのだろう?。最初から我れの計り事だと…」


「…」


「当初こそ、お前に使わす天使など居なかった。天概のその目覚めにより、我が忠実なプロビデンス(幼天使)を地上に放つだけの鐘でしかなかったのだが、偶然目にした女天使に企てを覚えずにはいられなかったのだよ」


アドラスティアの持ち手は強くなった。


「どうだ?アイイエルはリスティエルによく似ていたか?」


ルシファーは堪らずに白面で表情を覆い剣を上げようとしたが、アイレーナの身はまだ動く程度には治癒はしていない。その衝動を抑え込み白面を消失させるといつもの様子で切り返すのだ。


「…いつからだ?。いつからお前は変わった?」


「そう、変わったか… フフッ

罪を犯したのだよ。取り返しのつかぬ過ちをな…

多くの世界に渡り同じ過ちを繰り返す人類種に道を示したかった。

そこで我は天界の禁を犯し一人の人間に憑いたのだ。

その者は理りを尊び教えを人々に説いていったが、最後に行き着く場所は死刑台の壇上だった。十字架に張り付けられ、その命を見世物に群がる群衆…

その光景を目の当たりにし、こう思ってしまったのだ。

[この世界の人類に救いなどないと…]

そんな疑念に駆られた時から、我が心は蝕まれていったのだろうな…」


どこか物悲しげな表情を垣間見せたが、直ぐに顔色は立ち返るのだった。

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