28.決闘の領域

デトロイトの中心街を舞っていたアイレーナは突然動きを止めたネフィリムと幼天使の姿に剣を下げた。そこに予期せぬ声が届く。


「(アイイエル、我が主塔に招待しようではないか。来るがいい」


「…」


何も告げず天言領域から姿を消した影にラファールは焦りを見せた。ケルテに向かったに違いないない。そんな状況を推し量ったアナスタシアは、その場を竜翼の天使・アナトリアに預けるとラファールの元にゲートを開いた。


「行ってちょうだい。ここは私が引き受けるわ」


「アナスタシア….」


「だって、私じゃ少し役不足だもの…」


「ありがとう」


ミスリルの鉱石で打たれたエンジェルアーマードの形骸が正門や宮殿のあちこちに落ちていた。中には身動きが取れない程の深手を負った天使もおり、上空を駆け抜けたアイレーナの影にゼウスを盲信する天言はうわ言のように上げられていた。


主座の広間に詰め掛けていた多くの天使達の中で、ゼウスに対峙していたのはミュハエルただ一人だったが、勝負は既に決っしていた。白地石の床に突き立てられたアロンタイドを支えに立ち上がったミュハエルは、開け放った大開口のバルコニーから姿を現したアイレーナを目にすると再びゼウスを睨みつけた。

十翼の天装衣と翼。そして身の内から放たれた背光の輪を降臨させていた。


「よく来たな。お前の事は放って置こうと思ったのだが、聞くに及ぶと、ルシフェルの片翼を得たそうではないか…」


奮起したミュハエルは言葉を裂くようにゼウスへ向かったが、放たれた紫電に後方の壁面まで吹き飛ばされた。

その姿を眼にしたアイレーナはゼウスの顔前に臆する事なく剣を振り下ろすと、ゼウスは緩んでいた眼差しを厳しくする。


(まさかここまで地力を上げようとは…死して尚我に逆らうか…

よかろう…その因果、全てを断ち切り終わらせてくれよう)


背光が定めし決闘の領域はアイレーナを定めた。片鱗する光の面影。

これではまるであの時と同じではないか。駆け付けたラファールは青ざめた領域内に足を踏み入れると天装衣や手にしたアストラルは形を失っていく。声が届くと剣を収め引くようにと言うが、そうはさせまいと背光を轟かせた。

決闘の領域はさらなる隔絶を生み外界のいかなる干渉をも拒む。もはや入る事も出る事も出来ない。

二人の天使を支えに領域内に足を踏み入れていたミュハエルは、巻き込んでしまった二人に詫びいていた。

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