27.永遠の邂逅

アナスタシアは紫電の拡散に精細を欠き、下衣の天装衣はその一表を稲光らせた。三対一の状況に押され始めたその目にさらなる問題がのしかかる。

ビルの裏手に離したはずの子猫が誰の手に拾い上げられる事もなく現したのだ。

アナスタシアは息を詰めた…

感知した幼天使は矢の如く小さな影に突き進む。阻止しようとすかさずにアナスタシアも出るだが、立ち塞がったネフィリムに阻まれてしまい先立つ事は叶わない。

放たれた咎に最後を観た次の瞬間、一人の天使が姿を現したのだ。


….いいや、天使なのだろうか?


首飾りを下げた出で立ちは我々の天衣と似通ってはいたが、どこか毛色の違う感覚に眉を顰めた。

装甲させた片腕の手の内で咎を砕くと、その深い朱色の瞳を流した。すると動きを止めていた幼天使は羽根を逆立てて一目散に身を引いたのだ。竜翼によく似た翼が躍動している。

足元に擦り寄った子猫を鷲掴み拾い上げる姿に、近くに降りたアナスタシアは何かされるのではないかと思い「やめて…」と、声にした。天装衣の無機質的な装甲とは異なり、生物的な面をも見せる腕の装甲は鋭い五指を覗かせ、毛玉のような子猫を今にも握り潰してしまいそうだった。

そんな心配をよそに顔前まで引き上げると、挨拶をするように子猫の鼻先に鼻先を当てた。子猫は鼻先にカブリつく。クスクスと笑った彼女は変質させていない片腕に持ち変えるとアナスタシアに差し出した。


「…久しぶりね。元気にしていた?」


子猫を受け取ったアナスタシアは全く見に覚えのない彼女の姿に声を詰まらせてしまったが、察した彼女は直ぐに言い直した。

「あぁ、すまない。…つい懐かしくてな…」

「⁉︎」

新手の気配がする。子猫に天使の輪を回しアスカロンの持ち手を強くした。

「大丈夫。私の連れだ」

角を曲がって姿を現した四獣は巨大な狼のような姿をしていた。脇目もふらずにアナスタシアの前に駆け寄ると、鼻先を懐に埋めて甘えたように息を鳴らした。狐につままれたように立ち尽くすと上半身の天装衣はスルスルと解けていた。竜翼の彼女の心色は他の天使達と同様に窺い知れなかったが、この四獣の心色は観て取れる。甘えてくる子猫と変わりない。

少し戸惑いながらも鼻の頭を撫でるとまた一段とうれしそうに息を鳴らした。

「さて…せっかく来たんだ。手を貸そう」

竜を模したような装甲に全身を変質させていくと、放たれる覇気にアナスタシアの羽根は逆立った。


一体彼女は何者なのだろうか?


そんな疑念も今は後回しだ。


「お願い。出来れば操られているあの子達は傷付けたくはないの」


「…そうか」


白狼を参戦させようと思っていたが、あの手合いに手加減は出来ないだろう。首飾りの透石が僅かに輝光すると石柱の門を召喚して元の場所に送り出した。

「ほら、(ベシ!)帰りなさい。後で呼んであげるから」

大きなお尻を叩くと渋々と入っていった。背中の大きく空いた衣からは薄っすらと光る光印のような紋章が白い肌に浮き上がっていた。

アナスタシアは彼女が開いた門に一瞬手を入れると安心したように子猫も放した。

消え去る石柱の門を背に二人は飛び立つのだった。

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