25.各地
ゼウスの雷によく似た双刃の剣を手に、二人の幼天使はラファールへと襲い掛かった。
被害を出すまいと上空戦に引き付けたラファールの気など露知らず、何かのアトラクションのように歓声を上げる人々だったが、狡猾にも放たれた咎に焼かれ、焼失した様を目の当たりにして身の危険を知るのだ。
二人掛かりでも綻びを見せないラファールの姿に幼天使の一人はネフィリムへと姿を変えていく。どうやら飛行能力には乏しいらしくその身はスルスルと落ちていく。人気のない場所まで誘い込もうと思っていたのだが、それならこの場所に固執するだけである。
(実に素晴らしい光景ではないか…)
その眼で見通したの有様にニタリと笑みをこぼしたゼウスは、首筋に蠢く疼きに手を回した。
一方、窮地に立たされていたアナスタシアは、二体のネフィリムと一人の幼天使に防戦を余儀なくされていた。守るべき対象は既に辺りから引いていたが、命知らずな者達は我々の闘いを刮目しているようだ。
(私が感知すべきは片腕に抱いたこの子(子猫)だけ)
どこか安全な場所に置いてやりたいが、ペントハウスを破壊した幼天使は半巨人化させた片腕引くと、瓦礫から姿を現した子猫をも手に掛けようとしていた。私と接触した因子に反応したのならば手放したとしても標的となり得るのかも知れない。
天使の輪を回した子猫を手の内に、マンションの壁面を地とした局面から地上戦へと移り変わる。
細く美しい透剣・アスカロンは淀みなく、光の返しさえ写らなければ視認し難い程である。斬り払うその手に余力は十分残されていたが、対峙する幼天使は庇護し育むべき存在でしかない。何とか説得を試みようと呼び掛けるが声は返らない。
同時刻、マンハッタン島・ニューヨークに立つガブリエルは、地上天使の集う天言領域に現れたウリエル達の姿に声を漏らした。彼女達は手の回らない場所へ赴いてくれていたのだ。
「(あなた達…)」
世界の主要都市と堕天達が所在した地に降り立った幼天使達は次々と行動を起こして行く。ロンドン・モスクワ・ムンバイ・上海・東京など、三十以上もの地域に現れると無情にも人々を焼き払うのだ。
内戦にほど近い中東地域ではマシンガンやロケットランチャーなどの銃火器が出現したネフィリムへと浴びせられたが、白無垢の体に取り込まれるように攻撃は搔き消えるだけだった。
小惑星帯の岩石を潜り抜けるように、空中に浮いた車の間を翻りネフィリムを攻め立てるガブリエル。
「(ゼウス様!、これは一体どう言う事ですか⁉︎)」
天界まで通じていた天言を発すると、ガブリエルの急く声に疎ましく声を上げたゼウスは、世界各地で奮闘する天使達にも告げられた。
「(我が名により、地上に巣食う業を焼き払う。妨げるは背光に仇なす者としれ…)」
ゼウスの暴虐に言葉を失っていた天言領域の天使達の前に、沈黙していたミュハエルが姿を現した。
「(オレが直接掛け合おう…)」
消え去るその姿にあの日の予感を覚えずにはいられなかった。
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