24.弓引く天使

「お、おい…あれは何だ⁉︎」

上の空を偶然見上げていた一人の声に、居合わせた群衆は歓喜に目を見開いた。

それは啓示天使に違いない、と…

ルシファーが掃討戦に舞ったデトロイトに姿を現した幼天使は、一部規制が解かれたばかりの車道に何の前触れもなく姿を現した。

事後談を追うメディアが直ぐに駆けつけると、翼を背に地面から浮き上がっている姿が車道の中心にあった。警官達は対応に苦慮し上からの指示を仰いでいたのだが、もう間も無くだ。幼天使がその白面に赤い光印を発すると、辺りを囲んでいた人集りは悲鳴を上げるのだった。


翼を広げ全身が白く輝くと幼天使はネフィリムへと巨人する。

エルフが変貌した形態とは異なり、悪意が抜け落ちたような白無垢を凶器として人々を襲い始めたのだ。

踏み潰された車から火の手は上がり、青水晶のように美しく透き通る大爪は命を狩り取る。引き裂かれた肉体は蒼炎を上げた。

パニックに陥った人々は行くて我先にと逃げ惑うも、ネフィリムはその腕を地面に打ち鳴らし一帯の重力を制した。ある者は浮遊し、ある者は地に落ち。自由を奪われた人々は為す術もなく命を燃やすのである。


パスの開かれたこの地上で天眼の視野は世界に広がり、アナスタシアは自宅の周辺に現れたネフィリムの影を捉えると直ぐにゲートを開いた。

それは偶然などではなく、ラファールが人として長年過ごしていたクリーブランドのアパートの周辺にも姿を現しており、シンシナティも同様、ヨーロッパ組の三天使も同じ状況であった。

ゲートを開き姿を消していくラファール達の姿を目の当たりにして、しばし俯いたガブリエルは徐に白面を消失させると、集ってきたウリエル達に別れを告げた。

「私は行くわ。あなた達は帰りなさい」


彩片の翼を持つラファールはえぐり取られたように破壊されたアパートの一室に目をやるとその横をかすめた。先にいる幼天使は道行く人々を無差別に襲い焼失させていく。結晶剣を手にしたラファールは幼天使に迫ると、逃げ出すように飛行速度を上げたのだが、その最中にも人々に咎は放たれる。思わず表情を歪めたラファールは更に速度を上げて幼天使に斬りかかるとヒラリと身を躱された。

しかし、反撃に繋げるような身のこなしではない。このまま追い立ててやれば被害を出さなくて済むのかも知れない。暇を与えず攻め手を続けると、辿り着いた先にもう一人の幼天使が佇んでいる。

池の柵に詰めかけていた人集りにも反応する事なく水面で大人しくしていたのだが、追って来た幼天使が纏わりつくように一回りすると、目覚めたように並んで浮上していくのだった。

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