6.天眼

一度打ち合わせただけで血塗られた小曲剣は砕け折れた。やはり彼女に任せておいても問題はないのかも知れない。それなりの動きをしたパーペストをあしらうように、適当な所で二度両断する。また一体とパーペストの身が崩れ落ちる最中、刹那を見通す天眼がニタリと口端を上げた表情を捉えると動きを止めた。

こう言った傀儡の感情は、術者の思念によりとても不安定なもので、何かを推し量るには至らないかと思っていたのだが…

「…何がおかしい?」

ルシファーは少し奥の方で控えている一体に問うと、軽く振り払った腕先の空間から形成した結晶体の杭・咎を足元で蠢くパーペストに打ち込んだ。それは頭部や胴体に突き刺さると蒼い浄化の炎を上げた。

相変わらず無駄なことをしていると、弾込めし直したリボルバーの撃針が引かれた様を何の思惑もなく捉えていた。その銃口が向けられていたのはアイイエルの方だったが、目覚めている彼女には意味は成さない事である。

撃針が打ち付けられた雷管の起爆が弾丸を発した時だ…


奇妙な感覚に、天眼は時を制した。


研ぎ澄まされた視覚と思考は時の流れを超越して、弾丸が切り裂く空気の振動さえも捉えていた。


「(そいつは防ぐな!、避けろ!)」


ルシファーの発した「(天言)」は一種の思念伝達である。それは時を制した天眼の思考領域内における概念も有していた。

天言に喚起され、放たれた弾丸の特異を直ぐに察したのだが、傷付いたその身と、あらゆる力に付与していた主翼である翼・天翼を欠いた今、たった一発の弾丸を回避する事すら叶わずにいたのだ。

半径三メートル。その領域に達した弾丸は鉛の代わりに仕込まれていた赤石を残して消失した。残影(戦技)を用して身を瞬転させようと試みたのだが、とても不安定な影がチラつくだけである。ダメもとで身体に重ねて見ても虚しく掻き消えていくだけだった。

しかし、天眼で刹那を見入る彼女の思考は冷静そのものだった。構えていた結晶剣を弾道に合わせて軌道を反らせればいい。数センチ傾ければ事は済むのだ。それくらい訳はない。


しかし…ルシファーの発した天言の意味を理解した時、彼女は全てを失うのだった…

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