5.光をもたらす者
相手は三体。こいつらは体を傷付ける程度では止まらない。
後ろ手に剣を構えた姿にパーペストの一人は次々と銃弾を発したが、僅かな瞬きと共に宙で消失していく。それは天使としての理りである。
- 打ち破るは己が力のみ -
平然とアドラスティアを構えていたのだが、射撃の精度の悪さに男は舌打ちを打った。覚醒している自身ならまだしも、気を失っている天使ではその領域がどう作用するかは分からない。
片翼を拡翼し、片翼を前面に。地面に伏せっているアイイエルの姿は見えなくなり、弾丸は虚しい発砲音を響かせるだけだった。
視界を遮る翼。それを好機とナイフを手にした一体が翼の死角から抜け出そうとしていたが、遮蔽物越しにだろうが周囲の空間を認識できる天使の目・天眼には意味を成さず。振り抜いた一閃にパーペストの身は両断された。
この行動を見るに我々(天使)に対しての知識は薄明のようだ。
ボトボトと床に落ちたその身は大した出血もなく、頭部と繋がっている部分はまだ平然と動いている。鼻についた悪臭とその様に嫌悪し、翼から差し向けた押力で突き放すと血の跡を引いた。
それを目の当たりにしてもパーペストが後に引く事はない。一体が大腿部のボトムスを裂くと、その両手で縫い目らしき傷痕を引き裂いた。苦痛に顔を歪めるでなく、裂いた肉の中から浅黒い小曲剣を取り出した。
蛇毒剣のようだが、やはり意味はない。早く片付けて終おう…
剣身についた僅かばかりの血を煤塵と化す。そんな折、意識を取り戻したアイイエルの反応に直ぐさま身を引いたのだ。
( ⁉︎、まだ寝てればいいものを…)
男は顔を僅かに顰める。
簡易構成した結晶剣を振るう彼女の姿に力はない。苦痛に顔を歪ませて立ち上がると、人外の存在などは無視して、その琥珀色に輝く瞳で男を睨みつけていた。薄汚れていた頬の穢れや天装衣の身の内に着ていた天衣の穢れも朽ちていく。
再び剣を上げた彼女の姿を目にして男は考えた。例え傷付いた身とは言え、人間より多少優れている程度のパーペストに遅れは取らないだろうが…
…肩を竦めた心許ない彼女の様子に、一転してパーペストへ翻るのであった。
顎を立て滑空せしは、この後の世において堕天使・ルシファーと名指されていた天使の姿である。
彼がその身を呈し、この世界の有様を紡いだ事実など、語り継がれる謂れなどありはしなかった。
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