第四章
製鉄所の応接室。蘭と懍、そして水穂がいる。
懍「そうですか、、、。僕たちも責任がありますね。」
水穂「で、彼は今どうしてる?」
蘭「はい、とりあえず杉ちゃんの家にいてもらってますが、今まで寝太郎といわれていた以上に無気力になってしまって。」
水穂「具体的に言うと?」
蘭「ずっと畳の上に寝ころんだままで、ご飯もろくに食べないんです。杉ちゃんは、一生懸命いろんな食事作ったりして、慰めていますけど、こっちは、もう、いい加減にしろって言いたいくらいです。彼のご両親に相談しようとも考えましたが、彼がどうしても嫌だというのでそれはやめていますけど、、、。」
水穂「かわいい子には旅をさせよ、も、ダメになってきているということか。時代も変わったな。」
蘭「そうだよ。若い人が目の前のマイナスというか、過去のマイナスにつぶれて、立ち直れないんだな。」
水穂「僕もわからないよ。どうしたらいいんだろう。僕らのころは、誰かに相談ってのも珍しいことじゃなかったけれど、今はそれも罪だと考える若い人も多いよね。」
蘭「本当だね。この十年で、浦島太郎になった気分だよ。」
水穂「いつまでも変わらないのは、杉ちゃんくらいなもんだろう。」
蘭「まさしく。」
懍「蘭さん、水穂さん、嘆いていてはなりません。それよりも彼をどうするかを考えましょう。」
水穂「でも教授、いくら考えても方法が見つかりませんよ。」
懍「僕は、何かセラピーとか、そういうスピリチュアルな力を借りないといけないと思うんですよ。」
蘭「スピリチュアル?」
懍「ええ、そうです。人間にはどうしても理論では解決できないものもあります。僕も、妻と子を亡くした時は、利用させてもらっていたのですが、僕は彼に催眠療法を受けさせるべきではないのかと思うのです。」
蘭「催眠療法?なんですかそれは。」
水穂「そういえば、ラフマニノフが交響曲を書き上げた時の不評で鬱になったときに、催眠療法を受けたと聞いたけど、」
懍「はい、まさしくそれなんですよ。もう、僕たちで何とかすることはできません。以前、僕が受診した先生にこちらに来てもらって彼を施術してもらいましょう、僕が電話してご都合を聞いてみますので。」
蘭「でも、催眠と言いますと、なんか、テレビで魔法をかけるようなそういうやつですか?なんだか怖いな。」
懍「いえいえ、そんなことはありません。ただ、過去や現在の記録が映像化されるだけです。場合によっては、生まれる前の大昔の映像が見えることさえある。ブライアン・ワイスという偉い方がそう提唱されておられます。」
水穂「ああ、聞いたことありますよ。前世療法のことですね。」
懍「その通り。彼には、前世まで見ることは必要ないかもしれませんが、彼がなぜあそこまで火を極度に怖がるのかその理由は突き止められると思います。先生は、かなりお年を召しておられますが、お元気な方ですので、東京からこちらに来てもらうことは可能だと思います。」
水穂「ここは教授のいうとおりにしてみよう、蘭。餅は餅屋という言葉もある。」
蘭「そうだね。お前は賢いな。」
杉三の家。食堂で、話をしている杉三と蘭。
杉三「彼に暗示をかけるの?」
蘭「そうだよ。そうしなければ救われないって青柳教授が言ってたよ。」
杉三「それってマインドコントロール?」
蘭「いや、それとは全然違うって。マインドコントロールは悪いほうにもっていくが、催眠療法はそうじゃないほうへもっていくんだ。」
杉三「でもな、他人に心をゆだねるのはやっぱり怖いな。」
蘭「でも杉ちゃん、僕たちでは、彼を何とかすることはできないでしょ。餅は餅屋だよ。」
杉三「本人はどうだろう?」
蘭「それは聞いてみなきゃわからないけど、嫌だとは言わないと思うよ。」
杉三「あ、車の音がした。」
蘭「話をそらすなよ」
杉三「だってするんだもの。」
と、インターフォンが鳴り、
声「杉三さん連れてきましたよ。時任貞夫先生です。」
杉三「青柳教授だ。どうぞお入りください、カギは開いてますので。」
同時にドアが開いて、
声「お邪魔いたします。」
と、一人の老人が入ってくる。懍と水穂も入ってくる。
懍「紹介します、セラピストの時任貞夫先生です。」
貞夫「時任貞夫です。よろしくどうぞ。」
と、敬礼する。年齢は、90歳を超えているということで、確かに老人らしく、しわだらけの顔をしているが、目はしっかりしており、まだまだ現役を貫いていることをはっきりと示していた。杖や補聴器など老人を象徴するものは何一つもっていなかった。きちんとスーツを着て、ネクタイを締めた、老紳士であった。
杉三「初めまして、僕は影山杉三です。こっちは親友の伊能蘭です。」
蘭「杉ちゃんは関係ないんだから、自己紹介しないでいいんだよ。」
貞夫「クライエントさんはどなたですかな?」
杉三「クライエント?」
貞夫「はい、セラピーを受ける方です。」
杉三「空き部屋で寝てますよ。」
貞夫「どちらですかな。」
杉三「こちらです。」
と、空き部屋へ案内していき、ドアをノックする。
杉三「起きろ、セラピーの先生がお見えになったよ。」
返事はない。
杉三「返事位しろよ!」
それでも反応はないので、杉三は空き部屋のドアを開けてしまう。
杉三「起きろよ。もうお昼過ぎちゃってるよ。」
公平は、以前よりもずっと無気力になり、一日中布団で寝ていることも非常に多くなっていた。ご飯なんて、一日一食程度しか食べなかった。
杉三「先生。この人です。名前は穴井公平君です。彼はとても素晴らしい働き者ではありますが、ご覧の通り、今は寝たきりに近い生活で、ご飯も食べてくれません。その理由はただ一つで、火を見ると恐ろしく怖くなって、大暴れしてしまうのです。僕たちは、彼を何とか救ってあげたいんですが、どうにもなりません。先生、先生は暗示をかけるとおっしゃっていましたけど、僕は心配で仕方なくて、彼がかえってマインドコントロールされて、もっとかわいそうな状態になるのではないか、不安で仕方ないのです。青柳教授は、こういうスピリチュアルな世界に頼らざるを得ないといいますが、それは、本当に彼を何とかしてくれるものなのでしょうか。蘭が、インターネットで催眠療法の効果を調べてくれたりしましたが、僕は文字が読めないので不安です。僕らが苦労して彼に接してきたことが、たった目をつぶって指示に従うだけで、解決するもんなんですかね?」
蘭「杉ちゃん、そんなに長く演説するもんじゃないぞ。」
杉三「だって心配なんだもの蘭。だからやる前位いろいろ聞いておくべきだろ。」
蘭「杉ちゃん、今は先生の指示に従おう。」
杉三「なんで?この場合は立ち会ってあげてもいいんじゃないのかい?だって、彼がセラピーを受けている間、本当に洗脳していないか、確認するためにも僕はそばにいるよ。」
水穂「杉ちゃん、セラピーと、外科手術とは違うんだぞ。」
杉三「うん、確かにそうだ。癌の手術とは全然違う。だって、がんの手術は悪いところを切り取るだけでしょ、でも今からやろうとしていることは、心を操作して一生に関わることだから、見届けたい。」
蘭「あのねえ、杉ちゃん。」
杉三「僕は、以前、学校に潜り込んで、教師が生徒を洗脳してた現場を見たことがあるから、同じ失敗をしないためにも、立ち合いたいんだ!」
蘭「もう、なんでそうなるのかなあ。」
杉三「だって彼は、これからのほうが長いじゃないか!それを全部だめにされたらどうするの?誰が責任ん負うの?」
懍「蘭さん、こうなってしまったら、もう僕たちには止められません。」
蘭「しかし教授、それではまずいでしょうに、」
貞夫「わかりました。杉三さんだけ、ここにのこることを許可しましょう。」
蘭「先生、邪魔になりませんか、杉ちゃん。」
貞夫「いえいえ、彼のように、そこまで他人を思いやれる人間は、極めて少ないものですよ。」
蘭「本当に申し訳ありません。僕の不行き届きで。」
懍「僕たちは部屋から出ましょう。早くしないと、先生の都合もあるでしょうからね。」
蘭「はい、わかりました。じゃあ、杉ちゃん、くれぐれも余分なことは言わないでね。」
杉三「わかったよ。」
蘭と懍、水穂は静かに部屋を出ていく。
貞夫「じゃあ、まず、施術をする前に、この紙に書いてもらえますかな。」
杉三「ほら、起きろ、公平君。」
貞夫が、紙と鉛筆を取り出して公平に渡す。公平は布団から立ち上がって、空き部屋にあった椅子に座り、「ヒプノセラピー問診票」と書かれたその紙に必要事項を記入する。
公平「はい、かけました。」
と、貞夫に手渡す。
貞夫「はは、なるほど。火を怖がらないようになりたいのが、あなたの望みなのですね。」
公平「はい。もう、それのせいで、自分の人生ダメにしてます。」
貞夫「悲観するのはまだ早いですよ。まだまだ先はあるんですから。」
公平「でも、これが一生続くなら、そんな時間なんて正直いらないですよ。」
貞夫「そうですね。確かにそうおもってしまうのも、わからなくないですよ。」
公平「だったら、、、。」
貞夫「早まってはなりません。一緒に原因を探っていきましょう。ではですね、もう一度布団に横になっていただいて、目を閉じてください。」
公平「はい。こうですか。」
机から布団に戻って、仰向けに寝て、目を閉じる。
貞夫「そうですそうです。では、イメージしてみてください。あなたは、大きな草原にいます。シマウマが草を食べていたり、ヒョウが木の上にいるかもしれません。」
公平「はい、草原なのに竹林が映えていますが、それでいいのでしょうか?」
杉三「大丈夫かなあ、テレビを見ているわけではないんだからなあ。」
貞夫「大丈夫ですよ。これは世界と世界の間の草原です。その竹林は新しい世界への扉を持っているはずです。そこへ行ってみてください。」
公平「はい。行ってみました。」
貞夫「竹林の中に道があるはずですね。それを歩いてみてください。」
公平「はい。」
貞夫「そうすると、道の脇に一軒家が見えてくるはずですよ。見えますか?」
公平「はい。あれ、これは俺の家です。引っ越す前にいた家です。」
貞夫「どんな家なのか説明してください。」
公平「はい。俺は、小学生になるまで、今の家とは別の家に住んでいました。」
貞夫「家族構成はどんなでしたか?ご両親だけですか?」
公平「いえ、違います。」
貞夫「おじいさまとおばあ様?」
公平「じゃなくて、動物を飼っていました。俺は、動物が大好きだったんです。」
貞夫「何を飼っていましたか?犬ですか?」
公平「違います。」
貞夫「じゃあ、猫かな?」
公平「いや、違います。俺は金魚が大好きで、金魚を飼っていました。」
貞夫「お祭りかなんかで買ってきたのかな?」
公平「いや、屋富で買いました。金魚で有名なところです。」
貞夫「なるほど。どんな種類の金魚でしたか?」
公平「秋金です。真っ赤で可愛い金魚でした。らんちゅうと流金の中間みたいな金魚ですね。」
貞夫「なるほど。それで、家で飼育していたわけですね。」
公平「そうなんです。幼稚園から帰ると必ずエサをやっていましたから。」
貞夫「わかりました。つまり、それだけかわいがっていたのですね。」
公平「でも、そいつは、呆気なく逝ってしまいましたけど。」
貞夫「病気にでもなったの?」
公平「いや、違います。俺が、五歳くらいの時だったのですが、、、。」
公平の目から一気に涙が出てくる。
貞夫「何かあったのですか?」
公平「はい。母が灰皿を方付けたのですが、その時の一本が火が完全に消えてなくて。それで、気が付いたときはうちの中は火の海だったんですよ。」
貞夫「ああ、火事になってしまったのですか。」
公平「はい。僕たちは急いで避難して、幸い無事だったのですが、当然のごとく、金魚はもって逃げることができなかったので、、、。当然、といえば当然なんですけど、、、。」
杉三「公平君大丈夫か?あんまり取り乱すなよ。」
貞夫「そうですか。かわいがっていた金魚を火事から助け出すことはできなかったんだ。」
公平「はい。だから、金魚なんか買ってくるべきじゃなかったんでしょうか。俺は、金魚を殺してしまったようなものですよ。だから、火ってのは怖いんです。」
杉三「そんなこと、、、。本当かな。」
貞夫「そうですね。最愛のペットであった金魚をそうやって火が殺してしまったのなら、火が怖いと思っても仕方ありません。とりあえず今日は家を出ましょうか。」
公平「はい、、、。」
貞夫「じゃあ、最初の草原に戻りましょう。」
公平「はい。」
貞夫「はい、終了です。ゆっくり目を開けてください。」
公平「はい、、、。」
と目を開ける。
貞夫「はい、お疲れ様でした。」
杉三「なんだ、何があったんだ?」
公平「いや、びっくりしましたよ。俺はまだ、あの時の金魚の事を覚えていたなんて、信じられません。さんざん忘れようと努力してできなかったことです。なんでこんなことがまだ鮮明に残っているのでしょう、本当に心というものは、」
貞夫「人間は、どうでもいいことは比較的覚えているのですが、重要なことほど忘れてしまうし、忘れたくなるものなのですよ。」
公平「火が怖い理由はわかりました。でも、俺はどうしたらいいのでしょう。」
貞夫「結論を急ぐのは早いですよ。これからセラピーを重ねて、解決していきましょう。」
公平「はい、わかりました。ありがとうございます!」
貞夫「いえいえ、必要なら、いつでもやりますので。」
公平「ありがとうございます!」
と、貞夫に向けて最敬礼する。
杉三「これで解決なのかな?」
公平「でも、俺が今までわからなかった理由がやっとわかったので、よかったよ。」
杉三「でも、それが何になる?理由がわかったのではなく、どうしたら火を怖がらないようにするかを追求するほうが大切だと思うんだけど。」
公平「杉ちゃんは、どうしてそうやって理論的になるんだ?理由がわかってうれしいんだからいいじゃないか。それだけ、相当に悩んできた理由だぜ。」
杉三「心配しているんだよ。理由だけじゃ、やっていけないことはいくらでもあるもの。」
貞夫「この方は、本当に心配してくれているのですな。本気で心配してくれる人はそうはいませんよ。みんな、このセラピーの結果を信用してはくれませんもの。」
杉三「だったら、青柳教授がなぜこの治療を選択したのかな。」
公平「きっと、俺は、それくらい大暴れをしたということかなあ。それほど、迷惑をかけたことになるのか。」
貞夫「人間にはどんなに理論をあてはめても通じないものがあるんだよ。それが、心というものだ。よく、頭ではわかっているのにできないとかいうこともあるだろう。それと同じ原理だと思ってくれればいい。」
ドアを叩く音がする。
貞夫「ああ、もう施術が終わりましたからどうぞ。」
懍「ありがとうございました。」
と、敬礼する。
蘭「杉ちゃん、余計なこと言わなかっただろうな。」
杉三「うん、原因は分かったけど、本当にそうなのかも定かではないし、どうしてそれが導き出したのかもわからない。だって、目をつぶって布団の上に寝て、先生の言葉通りに想像しただけで、本当に答えなんて見つかるもんなのだろうか。」
貞夫「杉ちゃんからみるとそうなるだろうね。でも、思いっきりリラックスしてもらわないと、潜在意識には入れないんでだよ。」
杉三「せんざいいしき?なんなんですかそれは。」
貞夫「うん、人間には顕在意識と潜在意識というものがある。普段見たり感じたり考えたりすることは顕在意識がおこなうが、それは人間全体の一割程度に過ぎない。のこりは、私たちがこうしろああしろと直接指示しない意識、潜在意識によるものなんだ。」
杉三「でも、指示しない意識に操作なんてできるかなあ。」
貞夫「それができるんだな。人間の心というものは。そして、その潜在意識に埋もれている事項は、普段はほとんど登場してこないのだが、何かをきっかけにいきなり現れて、人間の態度や行動に悪さを与える。それがトラウマというものなんだよ。悲しいことに、これはいくら聞き出しても本人は口に出していえるものでもなければ、文章にして書きだすこともできない。でも、思いっきりリラックスした状態であれば、それが現れる。だから、この治療では、まずそうさせて、そしてその事項を映像化して見せることにより、本人に気づかせることが先決なんだ。時には本人が考えていないことが現れてしまうのも大いにありえる。でも、それも自分の一部として受け入れてもらわないと、次への成長は望めない。」
杉三「でも、受け入れてどうするの?悪いことしたって謝罪するの?考えていないことを引っ張り出して何になるのさ。それをして、損をすることのほうが多いんだからしまっておくんじゃないか。」
貞夫「杉ちゃん、人間にはそんな力は持ち合わせてないんだよ。」
水穂「ああ、なんとなく理解できますよ。相田みつをさんの詩にもありますよね、ぼろは初めに見せておけ、と。僕らも、すぐぼろが出る、などという表現を使うこともあるわけですから、そういうこともあり得るのかもしれませんよね。まあ、完璧に何でもかんでもできていたら、それこそこの世界は終わりだと聞いたこともあります。逆を言えば、それがあるからこそ、人間社会が成立していると言えなくもないですからね。杉ちゃん、君も同じだよ。そうやってなんでも口に出すことは、きっと、君にはその理由を言えないだろう。」
杉三「僕はただ、公平君が、また寝太郎といわれないようにしてやりたいだけだよ。」
貞夫「もしかしたら、杉ちゃんが一番人間的なのかもしれないね。」
懍「まあ、余分な話はやめて、現実に戻りましょう。先生、彼はまだ、治療が必要になりますよね。初めての施術でどこまでわかったのかわかりませんが、今後の見通しは立つのでしょうか?」
貞夫「そうですね。今日の施術で、彼が火を怖がる理由を見つけてくれましたから、あとは、彼がそれをどう乗り越えるのかですな。火を怖がる直接の現場となった映像は、潜在意識の中にしっかり残っているはずですから。それを呼び出して、客観的に見つめなおしてもらうことが必要になるでしょうね。」
杉三「本当にそういうことは可能なのでしょうか?」
懍「杉三さん、心配する気持ちは痛いほどわかりますが、僕らが出る幕ではないと思いますよ。」
蘭「杉ちゃんは、他人の心配をしずぎなんだよ。」
杉三「だって、また寝太郎寝太郎といわれてしまったらどうなるの?ただ、言葉をかけてるだけで、何も変わってないよ。僕はこの目でちゃんと見たよ。それなのに、なんでこの先生に任せられる?どこに証拠がある?」
懍「杉三さんみたいな人は、目で見たものが優勢になる習慣がありますからね。」
貞夫「まあ、確かに彼のいうこともあり得ます。でも、心というものは、彼の言うとおりに解決できるものではありません。」
蘭「だからね、杉ちゃんがいちいち手を出すもんじゃないんだよ。」
杉三「でも心配だから!」
懍「まあ、感情的にならないでください。とりあえず、先生には続けてもらいましょう。」
杉三「絶対にうまくいくわけないよ。」
懍「とりあえず、ありがとうございました。今日は僕らが用意したホテルに泊まっていただきまして、また、彼の施術をお願いします。」
貞夫「ええ、それは承知しております。こちらもできる限り努力いたしますので。」
懍「よろしくお願いします。じゃあ、うちのものを呼び出して、送らせますので。」
貞夫「はい、ありがとうございます。」
懍は、スマートフォンをダイヤルする。まもなく、車がやってくる。
懍「では、ごめんあそばせ。」
公平「ありがとうございました。」
貞夫「また来ますよ。」
と、静かに廊下を歩き始める。水穂もそれについていく。
蘭「もう、杉ちゃん、思ったことはなんでも口にすればいいってもんじゃないよ。こういう時は、ちゃんと先生の指示に従わないと。先生はちゃんとやってくれるさ。本来、他人がセラピーの現場に立ち会うことは禁止されているんだぞ。」
杉三「心配だったから立ち会ったんだ。だって、言葉をかけるだけだもの。」
蘭「僕らにはできないことはたくさんあるだろ。」
杉三「そうかもしれないけど、蘭。」
蘭「そうかもしれない?」
杉三「僕、ちゃんと立ち直ってほしいんだ。公平君が寝太郎といわれなくなる日が早く来てほしいと祈ってるんだ。それだけのことだよ。」
蘭「杉ちゃん、泣くなよ。」
杉三「だってそれだけのことだもの、、、。」
蘭「本当に感性が良すぎるんだねえ、、、。」
と、ため息をつく。
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