第5話 竜の本性
アニーは逆鱗を探す為、湖の周囲を歩き始めた。まずは抜け落ちた逆鱗が打ち上げられていないかと波打ち際から探す。しかし、鱗が見つかったところで普通の鱗と逆鱗は見分けが付くのだろうか?
しかし、歩けど歩けど竜の鱗らしき物など打ち上げられてはいない。
「やっぱりそう簡単には見つからないか」
歩き疲れたアニーが呟いた時、一匹の竜が現れ、湖に着水した。アニーはその竜がアレックスかと思ったが、そうでは無い様だ。若い竜なのだろうか、アレックスより一回り程小さい。
水浴びを始めた竜に近付く影が一つ。スレッガーだ。竜は人間の存在など意に介さないとばかりに水浴びを楽しんでいる。無防備に見える竜にスレッガーは手にしているドラゴンキラーを突き立てようと一気に距離を詰めた。
さすがにこれには竜も反応し、前足の強力な爪でスレッガーを捉えようとする。彼は間一髪で身を躱したが、バランスを崩して倒れ込んでしまった。すぐさま竜の爪がまた彼を襲う。体を捻って追撃を躱したスレッガーは急いで立ち上がり、竜の懐に飛び込むと、ドラゴンキラーを竜の腹に突き立てようとするが、厚い鱗がそれを許さない。
「ちきしょう! コイツだったら竜の鱗を貫けるんじゃ無かったのかよ!」
スレッガーの顔に焦りが見え始めた。この竜はアレックスとは違い、じゃれついてきた人間と遊ぶ気は毛頭無いらしい。容赦無く、彼に襲いかかる。
激しい攻防、と言うより竜の攻撃に防戦一方のスレッガーが死に物狂いで振り回したドラゴンキラーが竜の喉元をかすめた。その瞬間、竜は狂った様に雄叫びを上げた。
切先が逆鱗に触れてしまったのだった。
竜の動きが一変した。怒りに我を忘れてしまっているらしい、むちゃくちゃに暴れまくっている。いや、むちゃくちゃでは無いのだろう、その目は逆鱗に触れた者、スレッガーを睨みつけている。
焦ったスレッガーは体勢を立て直そうとするが、竜の前足、鋭い爪に捉えられてしまった。アニーが捉えられた時は適度な力の加減で握り潰される事は無かったが、今はその時とは違う。骨が砕ける嫌な音がしたかと思うとスレッガーは口から血を吹き出し、動かなくなってしまった。
呆然と見つめるアニーが視界に入ったらしく、竜はスレッガーの亡骸を投げ捨てると彼女に向き直した。
――逃げなきゃ――
アニーは思ったが、腰が抜けて逃げるに逃げられない。死を覚悟して目を瞑ったアニーは轟音と共に吹いた風に吹き飛ばされた。湖に叩きつけられた彼女の目に映った物、それは怒り狂った竜に対峙するもう一匹の竜の後ろ姿だった。
――アレックス?――
突如現れた竜が怒り狂う竜に強烈な体当たりを喰らわせると、その衝撃で怒り狂う竜は落ち着きを取り戻した。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
竜がアニーに向かって言葉を放った。しかも、彼女が女の子だと見抜いている。と言うことは、現れた竜はやはり……
「うん、ありがとうアレックス」
アニーが確信して礼を言うと、二匹の竜は空の彼方へと消えて行った。
スレッガーと一緒に取り残されたアニーは、彼の変わり果てた姿を見てギョッとした。手足は有り得ない方向に曲がり、鼻や口からは血が流れて水面が赤く染まっている。せめて水から引き上げてあげたいが、金縛りにあったかの様に動けない。呆然としていると茂みの奥からガサガサという音と共にアズウェルが現れた。
「もしかしたらお前さんがこうなってたかもしれないんだぜ」
アズゥエルはスレッガーの亡骸を見るとアニーに言った。もちろんこれは脅しでは無い。彼女が出会ったのがアレックスだったから『人間がじゃれてきた』程度にしか取られなかったが、血気盛んな若い竜だったらアニーも同じ姿になっていたかもしれない。いや、アレックスでも逆鱗に触れられたら怒り狂い、やはり同じ末路をアニーは迎えていたことだろう。
アズウェルはスレッガーの亡骸を引き上げると、穴を掘り、埋葬してやる。そして水の中からドラゴンキラーを回収すると忌々しい顔で呟いた。
「こんなモンがあるから勘違いしちまうんだよな、人間ってのは」
墓標代わりに地面にそれを深々と突き立てるとアズウェルはアニーに向き直った。
「で、今度は何しに来たんだ? 兄さんが元気になったから礼を言いに来た……ってわけじゃ無さそうだが」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます