第4話 ドラゴンキラーを持つ男
朝食を終えたアニーはマイクの様子を見に行った。
「アニー、帰ってきたんだね」
嬉しそうな顔のマイク。しかしアニーの表情は冴えない。母親に言い聞かせられたものの、やはり兄の顔を見ると辛い思いがこみ上げてくる。
「お兄ちゃん……ごめんね」
詫びの言葉がアニーの口から溢れ出る。マイクは不思議そうな顔で答えた。
「なぜアニーがが謝るんだい?」
「だって、私、お兄ちゃんの役に立てなくて……」
アニーは母親にした時と同じ様に自分がせっかく手に入れた竜の逆鱗を使ってしまった事を話し、涙を流した。
「ごめんね、ダメな妹で」
うなだれてしまったアニーにマイクは優しい言葉をかける。
「アニーが無事で良かったよ」
マイクの言う事は母親が言った事と同じだった。あの時に竜が言った事は正しかったのだ。アニーの気が少し楽になり、ほんの少し彼女に笑顔が戻った。その笑顔を見て、マイクも微笑んだが、また激しく咳き込み出した。
慌てて背中を摩るアニー。
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
なんとか咳が収まったマイクは笑顔を作って言うが、大丈夫なわけが無い。アニーは決意した。
「もう一回行ってくる!」
アニーの言葉にマイクの青白い顔をますます青ざめる。せっかく無事に帰って来れたというのに妹は自分の為に危険な旅にまた出ようとしている。母親も彼女を止めようとするが、アニーの決意は揺るぎない。アニーは二人を安心させる為に自分の考えを説明した。
竜の鱗は生え変わる。と言う事は当然逆鱗も生え変わる筈。アズウェルがアニーにくれた逆鱗は、おそらく生え変わる際に抜け落ちた古い逆鱗を彼が見つけ、それを拾ったのだろう。竜が生息するあの湖の辺りを探せば、もう一枚ぐらい落ちているかもしれない。広い湖畔で小さな鱗を探すのは気が遠くなる様な話だが、竜と戦う危険は冒さなくて良いし、たとえ徒労に終わっても何もしないでいるよりはマシだと。
もちろん二人は道中の心配もしている。実際、アニーが危険な目に遭ったのは帰り道の夜の山道である。それについては無理をしない、山道で眠り込んでしまう様な強行スケジュールは取らず、日没までに山越えは終える様に調整するという条件で二人を説き伏せた。
アズウェルとアレックスに会った湖を再度訪れたアニー。今回は竜の姿は見えない。湖面は鏡の様に静かに空を映している。彼女は湖畔に野営の準備を始めた。泊まり込みで湖の周辺をくまなく歩き回り、竜の逆鱗を探すつもりなのだ。テントを張り終え、夜に備えて焚火の準備をする。もちろん薪を拾う時も逆鱗が落ちてないかどうか目を凝らす。しかし、そう簡単に見つかるモノでも無く陽は傾いて辺りはオレンジ色に染まり出す。
「今日はアズウェルもアレックスも居ないのかな……」
アニーのひとり言。それに呼応するかの様に茂みの奥から人影が現れた。
「アズゥエル?」
喜んだアニーが駆け寄ると、その影の主はアズゥエルでは無かった。アズゥエルで無かったどころかアニーからすれば出来れば会いたく無い相手、他の冒険者だった。背中には大きな長い剣、俗に言うドラゴンスレイヤーを背負っている。
「兄ちゃん、一人かい?」
冒険者が声をかけてきた。フードで顔を隠しているアニーを男だと思っている様だ。
正直に一人だと答えるか? それとも仲間が居ると答えるか?アニーは迷った。一人だと答えた場合、相手がどう出るかわからない。最悪、襲ってくる危険も考えられる。かと言って仲間が居ると答えたところですぐバレる様な嘘は相手に嫌悪感を抱かれかねない。アニーが答えを出せずにいた。
「そう警戒すんなよ。何も取って食いやしねぇからよ」
男の口から胡散臭いヤツの常套句が飛び出した。
「いや、そういうわけでは。あなたも竜を狩りに?」
男の言葉に答える形で話を変えようと試みたアニー。男は上手い具合に話に乗ってきた。
「ああ。やっとコイツを手に入れてよ」
男は嬉しそうに背中のドラゴンスレイヤーを抜いた。細く長い刀身は鋭い輝きで、まさに竜の鱗も貫くという凄味が感じられる。
「今日はコイツのデビュー戦だ。兄ちゃんは俺の勇姿を目に焼き付けて、皆に伝えてくれよな。竜殺しのスレッガー様の誕生の瞬間をよ」
男はスレッガーと言うらしい。さらに加えて言った。
「兄ちゃんも竜を狙うなら、コレぐらいの得物は用意しないとな」
アニーも前回は大きな剣を携えていたのだが、竜にはまったく歯が立たなかった。もっともそれは剣のせいでは無く、自分の未熟さからなのだが。しかし、そのおかげでアズゥエルに出会い、竜と会話が出来る事を実感した。
「竜ってさ、人間と話が出来るんだって」
「そんなの伝説に決まってんだろ。もし本当だったらとっ捕まえてサーカスにでも売り飛ばしてやるよ」
アニーの言葉をスレッガーは笑い飛ばした。彼は竜のことを自分が名を上げる為に狩るべき獲物としか考えていない様だ。
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