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「…ふう、いつも思うが天界の空気は冥界と違って清々しいな…」


「…そう?」



時空神クロノスの家から出て庭みたい所で身体の強張りを解すために深呼吸して呟くと、大地神ガイアはベンチのような椅子に座りながら首を傾げる。



…山に登った時のように空気が新鮮とか美味いとかいう感じでは無いんだが…



…俺の語彙力では何て表現すれば良いか分からないけど、なんか清々しい。



別に冥界の空気が淀んでたり詰まったりする、ってワケでもないんだけどな。



ただなんか重く感じるだけで。



そこらへんは空気中に含まれる精気やら瘴気やらが関係してるっぽいかも。



「…そうなの?」


「…何が?」


「…冥界の瘴気は、重いの?」



いきなり脈絡もなく唐突に聞かれても主語が無いので、何の話をしてるか全く分からずに聞き返すと…



普通に俺の内心の考えを読んでの疑問だった。



…サトリの能力はオフにして欲しいよ、全く。



「いや、ただなんとなくそう感じるってだけだよ」


「…冥界とか、あまり行かないから…」


「そりゃそうだ、頻繁に行かれたら俺らが困るよ」



冥界からしたら天界のお偉いさんが一体何の用だ!戦争か!?としか思わないもんな…



俺の曖昧な返答にまるで箱入り娘かのように返した大地神ガイアに、ソレが普通であると告げる。



「…冥界には、良く行く?」


「最近…ここ一年ぐらいはあまり行ってないな、あっちが今は安定してる…っつー事もあるんだろうが」



ココと違って用事が無ければ好んで行きたい場所では無いからな…と、ちょっと渋るような感じで答えた。



…逆を言えば天界が不安定になってきてるから俺が良く来てる、って事になるんだが…



俺らがいるあの世界はソレに輪をかけて不安定だらけだけど。



…だから安定させるために俺ら調停の使者が忙しなく動いてるワケで。



…魔界は魔界であっちは他の世界とは逆に不安定になる事の方が珍しいんだよなぁ…



他の世界が勢力の関係でブレてるからなのか、あっちは弱肉強食の法則がしっかりしてる分多少の変動ごときでは全くブレないし。



「…なるほど」


「…はぁ…」



またしても俺の内心の考えを読む大地神ガイアに言葉よりもため息しか出てこない…



「…この天界と貴方の世界が、今は不安定?」


「あの世界は常に不安定だけどな」


「…やっぱり、他の世界の現状を知るには、貴方と会うのが一番」


「俺は新聞か」



まさかの情報ツール扱いに俺は思わずツッコむ。



…非常食の次は情報ツール扱いか…やっぱり俺ってロクでもない扱いばっかりやわ…



「…そうでもない、重宝する」


「あー、はいはい…大地神ガイアにそう思われるなんて光栄の極み、至高の至りでございますー」


「…その言い方、嫌い」



内心での自虐を否定するように首を振ったので、俺が棒読みで思っても無い事を口にすると大地神ガイアは若干不機嫌そうな反応を見せる。



「…えー…」


「…天使と同じなのは嫌、貴方はどんな時でも変わらない…それが好き」



微妙に反抗するように呟くと、自分がなぜ嫌なのかの理由を話し出した。



「へー、へー…分かりましたよ…いつも思うが無礼で無作法が好きだなんて変わってるねぇ」


「…たまには変わり種も必要」


「…よいしょされてるだけは嫌、ってか?」



結局いつもと同じやりとりになってしまい、どう返ってくるかも分かりきった事を聞いてしまう。



…もしかしたら周りから持ち上げられて堅苦しい反応ばっかりされてたから、クロノスと結婚したのかもな…



対応や反応が変わらず、対等に接してくれる数少ない同位だし。



「…違う」


「…違う?」



大地神ガイアの否定に俺は言葉への否定なのか、心の声への否定なのか判別が付かずに聞き返す。



「…クロノスと結婚したのは、ただの気まぐれ」


「え、ええー…嘘だろ…」



まさかのカミングアウトに俺は他人事ながらまるで自分の事のように半ば呆然と呟く。

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