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「…ちょっと、なんで引きずったの?」


「悪い、今回はマジで時間ねぇんだ…許して」



イラついたようなリザリーの問いに素っ気なく返して謝り、無名の刃を少し出して指を切り血を舐める。



「…何かあったの?」


「詳しくはマキナ達から聞いてくれ…ショコラ、じゃあな!」


「え…?」



リザリーが察したかのように不思議そうに聞いて来たがマキナとエルーに振って、俺はポーチから取り出したスタンのピンを抜いてショコラに別れの挨拶を言う。



そしてスタンが爆発すると同時に部下は魔大陸に、ショコラは生産大陸の研究所のトイレに、愛梨は実家の俺の部屋に、俺は実家のトイレに…



と、本来なら複数回に分けてやる多数の事を全て同時にこなした。



うぐっ…!流石に影に触らずに各々を同時にそれぞれの場所に移動させるって負担がやべぇな…!



…だが…!愛梨の安否や状態を確認せねば…!



俺は休憩する間もなく身体を引きずるようにしてトイレを出る。



お、おお…なんかあの愛梨が拘束されてる所を見てるとナニカに目覚めそうだ…!



二階の俺の部屋に入ると…目隠しされて、後ろ手に手錠をかけられ…



更に口を布で縛られてる愛梨の姿があり、ソレを見て俺の変態な部分が疼く。



「…愛梨、大丈夫か…?」



が、なんとか抑えつけて外には出さず目隠しや手錠、布を外して声をかけた。



「…!?お兄ちゃん!?」


「大丈夫か?怪我は?貞操はまだ無事か?」



俺を見て驚く愛梨に二度目の確認を取り次々と聞いていく。



「うん、まだ何かされる前だったから大丈夫…それより、助けに来てくれたの?」


「当たり前だろ、変な電話があったから探し回ったんだぞ」



…妹のピンチに颯爽と駆けつける俺…ふっ、コレは惚れられてもしょうがないな!



ライクの『好き』からラブの『好き』になられても仕方のない事案だろう。



俺は一応影移動の事は伏せてそれらしい事を適当にでっち上げる。



「…う、うう…」


「…どうした?」



俺のその言葉を聞いて安心したのか愛梨は急に泣き始めた。



「…怖かったよー!本当は何が起きてるかも分からないし、何されるか分からなかったから、どうしようって…!」


「…おー、よしよし…もう大丈夫だからな」



俺に飛びついて泣きながら不安をぶちまけるので安心させるように抱き返して頭を撫でる。



…無理やり拘束プレイも良いかも…って思ったが、こんなに泣かれるんじゃ意外と怖かったりするんかね…?



とりあえず拘束プレイに及ぶ際には相手の同意を得た方がいいな。



プルルルル…



5分ほど俺の胸の中?で泣きじゃくってる愛梨の頭を撫でてるとケータイが鳴り出した。



「…電話…?」


「…俺のだ…もしもし?」


「もしもし程人!?大変な事になっちゃった!!」



泣き止んだであろう愛梨が俺から離れて首を傾げ、電話に出ると藍架が焦ったように叫ぶ。



…うるせっ…!



「…どーした?」


「愛梨が…!愛梨が拐われたみたいなの!!どうしよう!?私のせいで愛梨が…!」



ケータイを耳元から離して聞くと慌てた様子でかなり焦りながら要領の得ない事を大きめな声で言う。



…あの意味不明な電話ってお前関係だったんかい…



…つー事は拉致った奴が電話番号を間違えた系なのか?



「…あー、愛梨の件は大丈夫だ…俺が助けた」


「…えっ?」


「ほい」



内心呆れたように考えながら愛梨を救出した事を伝えると理解出来てないような声を出されたのでケータイを渡す。



「…え?あ、お姉ちゃん?私は無事だよ」



…流石に藍架の錯乱した、と思われても仕方のないような取り乱し方?での叫び声的な大声は、どうやら愛梨にも聞こえてたようなので…



愛梨は不思議そうな顔をして俺からケータイを受け取ると察したように自分の無事を伝える。



「…え…?…ええっ…!?うそっ!」



愛梨からケータイを受け取ると藍架は混乱したように現実逃避を始めた。



「嘘じゃないんだなー、これが」


「…あれ…?そういえば…ここ、見覚えがあるような…」



俺が現実を受け止めさせるように言うと愛梨は部屋の見渡して呟く。



「ああ、俺の部屋だよ」


「えっ!?お兄ちゃんの!?…なんで?…もしかして私、気を失ってたの?」


「いやいや、この前も同じ事しただろ?ソレと同じ手品」



タネも仕掛けもありませんってな…と、未だに電話越しに混乱してる藍架を無視して愛梨の疑問に答える。



「…どんな手品だから長距離移動を直ぐにできるの?」


「そりゃあ企業秘密だ、ネタがバレたら面白くないだろ?手品はミステリアスだから面白いんだよ」



…流石に影移動がー、とか説明出来ないし…こんなもんでいっか。



可愛らしいジト目のように見られながら聞かれたので、俺はごまかすべく適当な思いつきで返した。

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