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「…そこを、右だ…」


「あっ!」



先ほどの濃霧地帯に差し掛かり右側を指差すと少年が声を上げた。



「今、なんか見えた!」


「…うそ…!」



幻覚か小動物でも偶然に見かけたのか…



少年は俺と同じ右側を指差して驚いてる女の子に言う。



「…ナナシさんが見つけたのはアレか…追いかけよう!」



ボソッと呟いた少年がまたしてもいきなり走って行く。



「…!アレ…?」



少年を追いかけてる女の子も何かを見たのか走りながら不思議そうに少し首を傾げる。



嘘から出た誠、と言うべきか…ひょうたんから駒、と言うべきか…



適当に何かが見えて、ソレを追ってる振りをしてたら実際になんかの小動物が逃げていた。



誘導してるのか、ただ逃げてるのか、逃げ戻ってるのか知らないけども。



とりあえずおこじょ?いたち?マングース?的な小動物は俺の直勘が指し示す場所へと向かっている。



「…あれ?」



小動物を追いかけていくとだんだん霧が薄くなっていき…



森の最深部らしき場所に着く頃には完全に霧は晴れていた。



…へぇ、ここだけ晴れてるって事は自然現象では無さそうだな。



少年と同じく俺も不思議そうに辺りを見渡してると奥の方からバンダナを巻いた男が歩いて来る。



「!…なゼこの場所ガ…!?」



そして俺たちを見て驚きながら立ち止まった。



「…お前は…!」


「…!なぜ、ココに…!?」



俺は大体秘密結社の仕業だろう…と思ってたから大して驚きはしないが、少年と女の子は驚いて剣やナイフを手に臨戦体勢を取る。



…偶然、といえば偶然なんだろうが…相手の間が悪かったのか、少年の主人公属性が強かったのか…



「…今、お前達ノ相手をしていル暇は無イ」



俺が内心考えてるとバンダナは指を鳴らしてどこからともなく合成魔獣を召喚?した。



…旧時代の遺物による効果なんだから召喚した、と言うよりも、どこからともなく現れた…の方が表現的には合ってるかもしれない。



「…コイツらに遊ンでもラうんだナ…」


「!待て!」



バンダナがそう告げるとサーッと濃霧に包まれた…かと思えばサーッと直ぐに霧が晴れる。



少年の静止の声も虚しく霧が晴れた頃にはバンダナの姿は消えていた。



「グルルル…!」


「ギシャー…!」


「くそっ!」


「…来るっ…!」



キメラである合成魔獣二体は警戒したように唸ると直ぐにコッチに向かって来る。



そして悔しがる少年に女の子が戦闘の始まりを告げて走り出した。



「…うおお!覚醒の技術…サイコブレイブ!…バーンディストラクトぉ!」


「ギュアア!!」



遅れて少年は吠えながら走り出し、いきなり初手で必殺技的な大技を繰り出す。



…おお?一撃必殺?…ってかそんなん出来んならもっと早くからやっててくれよ…



俺は一撃で倒す少年に驚きつつ、内心愚痴のような事を零して女の子を魔術で援護する。



「…はぁ、はぁ…うおお!!」


「っ…!?」



何故か意味不明に吠えて鬼気迫る少年にあと一体の合成魔獣と戦ってた女の子は驚きながら離れた。



「…ファイヤーボール…レイン…」



とりあえず何があろうと後衛で援護である俺の役割は変わらないので…



下級の炎魔術を複数上に撃ち、合成魔獣目掛けて時間差で落とす。



「はぁ…はぁ…終わ、り…」



俺の援護+女の子と少年の連携により残り一体の合成魔獣も速攻で撃破する。



強化魔術を解いた少年は息を乱して地面に座り込んだ。



…今回は早く倒せたな…少年からしたら結構な強さだったハズだけど…



まあ一応は成長してるって事かね。



「…大丈夫か…?」


「あ、うん…」



少年のほんの少しの成長を感じながら俺は手を差し出す。



「…アレ…」


「…ん…?」


「…おそらく、依頼にあった木…」



少年を立たせると辺りをうろうろしていた女の子が戻って来て、泉だか池だかの大きな水たまりがある方向を指差して呟く。



「ホント?えーと…確か『アムダル』の木……」



少年は女の子の呟きを聞くとカバンの中から紙と図鑑を取り出して確認し始める。



「…どうだ…?」


「ホントだ!流石はメルト、良く見つけたね!」



俺が聞くとどうやら目的の木だったらしく、少年が喜んで女の子を褒めた。



「…えへへ…」



褒められたのが嬉しかったのか女の子は照れたように笑う。



「…木材は、どれくらい必要なんだ…?」


「えーと…長さ250cmで横幅17cm厚み5cmの板が15枚だって」


「…この木、全部?」



少年の詳細を聞く限り、目の前の木一本丸々必要になりそうだが…



まあ幸いな事にこの辺にいっぱいあるんだから一本ぐらいは構わないだろうよ。

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